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最初に出てきた一機に高速で肉薄。新手のまったく同じ機体が後方から動こうとするが 一機がそれを右手で制するような動作をする。 「一機で十分って言うのか!?」 一機が迎撃体制に入る。左肩の大型火器ではなく右肩の誘導弾を発射。 二発の誘導弾はすこしづづ違う軌道をとりながら急速に距離を詰める。 ノーヴェはジェットエッジをさらに加速。直撃など受けはしない。先ほどのように近接信管が起動する前に 一気に距離を詰め、自分のリーチに入り込む。 「まずは一機!!」 至近距離なら外しはしない。ノーヴェには自信があった。 至近距離から相手がばら撒くパルスライフルの弾幕を左二の腕のシールドで防御。さっきのエネのハンドガンに 比べれば熱も持たなければ一発も重くない。 「もらった!!」 右手に意識を集中。金色に光る右の拳は通常でも威力のあるノーヴェの拳がさらに強化されたということを意味する。 必中の間合い、一撃で倒せなくても当れば確実にダメージは通る。 だが、赤と黒の機体は振り上げられたノーヴェの右手の動きを読むかのように後方にステップ。 ノーヴェの右手は空を切った。それを狙ったのかのように左手のブレードに刃を形成、ノーヴェを狙う。 今度はノーヴェが受ける番。だがノーヴェは落ち着いて身を屈めてブレードを回避。そのまま左足を起点に一回転。 右足のジェットエッジを点火、加速させる。狙うのは相手の胴体と脚の接続部分、つまり一番弱い部分。 「はぁぁーー!!」 気合を乗せて蹴りを打ち込む。当れば生身だろうと魔導甲冑だろうが只ではすまない、・・・筈だった。 「っが!!」 ノーヴェの右足は受け止められた。しかも右手一本で。 「くそ!!・・・こいつ、離せよ!!・・・ぐぁ!!」 掴んだ右足をさらに強く握りこみノーヴェを持ち上げると地面に向かって振り下ろした。 地面の衝撃にノーヴェの視界にノイズが走る。体が受け止め切れなかった衝撃が与えるダメージの警告が 表示される。痛みもダメージもすべてノイズとしてカット。 「・・くそ!!離せよ!!」 だがまだ掴まれたままだった。そのまま何度も振り上げられては地面に叩き付けられる。 まるで甚振れる獲物を見つけたの喜ぶかのように頭部のレンズが光った。 それを見たノーヴェの心を恐怖が支配する。 『くそ・・・、こんな所で!!』 必死に人間的な感情を押しつぶす。腹筋部分を使い上半身を上げ、拳を叩きつける。一瞬、右足を握る腕の 力が緩んだ。その一瞬を使い左足裏を打ち込む。そのまま必死に転がり距離をとる。 頭の中で警告が鳴り響く。そのすべてを消去し相手に集中する。骨格・関節はまだ大丈夫、神経接続、 人工臓器・筋肉もダメージはまだ許容範囲!! 『こんな所でやられる訳には行かないんだ・・・。ギンガ姉に教えてもらった技術がどこまで通じるか 証明してやるんだ!!・・・それがあたしなりの恩返しなんだ!!』 ノーヴェが構える。相手の赤と黒の機体は不気味なぐらい静かに、本当にボロボロの機体なのかと 疑いたくなるくらいに静かに、そして動いている。 「ちくしょう、余裕を見せてるつもりか!?」 それがノーヴェの癇に障った。自分は余裕をなくしていた。ギンガとチンクが、 姉達が一番心配しているノーヴェの性格的な欠点が危険なところで表に出てきていた。 「うおぉぉぉーーーー!!」 一直線に突っ込む。そこに誘導弾を打ち込まれ、さらにパルスライフルが火を吹く。 「うぉぉぉーーー!!」 左右両手のシールドで体の前面を防御。魔力片が当ろうが、破片が掠めようが、魔力弾が装甲を削ろうが お構いなしに定めた相手を目指して突っ込む。 両手のガンナックルの先に力を集中。一撃で当らないのなら打撃を繰り返すのみ!! 必要以上に力を入れた動きほど読まれやすいものは無かった。 ノーヴェの続けて打ち込む拳を一機は簡単に避ける。面白がり、ノーヴェを弄ぶように・・・。 「・・こいつ!!こいつ・・・!!」 闇雲に拳を振り上げる。それが終わるのはあっという間だった。 「ぐっ!!」 相手の左拳が正確にノーヴェの胸を打った。思わず態勢が崩れるノーヴェ。そこに追撃で膝が伸びる。 膝が腹部に入る。ふらつきながらそれでも上半身を立ち上げるノーヴェの額をライフルの握把で叩く。 ふらつきながらなおも立つノーヴェの首を左手で掴み締め上げ、体ごと持ち上げる。 頭の中で警報音が鳴り響く。必死に振りほどこうとするが、まったく歯が立たない。 意識が遠くなり、耳も目も機能不全を起こしつつある体を赤と黒の機体は狙い、右手を構えた。 『畜生・・・!!うご、うごい・・・、から・・・だ・・・』 機能不全を起こしつつある体で一瞬轟音が耳に届いたような気がした。 次に感じたのは自分が振り回される感覚と左腕のごく至近で相手がパルスライフルを発砲したため、 知覚できた熱風だった。 その次に感じたのは自分が放り投げられ、飛んでいく感覚。 「私の妹を!!離しなさい!!」 一瞬誰かの声が聞こえた。だが先ほどのダメージでまだ体は麻痺していた。動けない。 頭から落ちればいくら頑丈な自分でも、もう・・・。 『ごめん、チンク姉、ギンガ姉・・・。ハチマキ・・・、出来の悪い妹で・・・』 機能が低下し、ぼやける視界に左肩のグレネードランチャーがこちらを向くのが見えた。 閉じた目でも感じれるほどの赤い光と爆発音、そして思ったより軽い衝撃。 最後には誰かにやさしく抱きかかえられる感触がした。固く結んでいた目を振るえながら目を開ける。 「・・・ハチマキ?」 「よかった・・・、首を掴まれてるのを見た時はもう駄目かと思った・・・」 スバルの展開したウイングロードの上でスバルはノーヴェをキャッチ、抱きかかえていた。 「スバル・・・姉・・・?」 「・・・大丈夫?・・・まだ痛いところはある?」 スバルの両目に涙があふれているのが見えた。自分のために泣いてくれている。本当の血の繋がった妹でもなく、 同じ遺伝子モデルを使っているわけでもない。幾度も血塗られた戦いを演じ、今でも些細なことから喧嘩をする。 「・・・ごめん、・・・スバル姉、ごめんなさい・・・」 「駄目だよ泣いちゃ・・・」 スバルが汚れるのも構わずバリアジャケットの袖で汚れたノーヴェの顔を拭いてやる。 「スバル、ノーヴェ、無事を確かめるのは後よ。今は目の前の敵を倒すわよ」 「うん、ギン姉!!」 まだ戦闘は終わっていない。ギンガは一機と相対し、遅れてドーム内に突入したなのはは様子見していた もう一機に照準を合わせていた。 「ノーヴェはここで待ってて。すぐに終わらせるから・・・」 そういうと壁にノーヴェをもたれ掛けさせ、休ませる。戦闘の場所においておくのは危険だが 今はゲートの向こうに送り届けるのは難しい。 「大丈夫だ!!まだ・・・、まだやれる!!」 体内と装備品の状態をスキャン、損傷・大破した部位との接続・修復機能を停止。修復を切断された神経系、 破損の軽い人口筋肉・関節に集中。それでも体の動きは硬くぎこちない。 「ギンガ姉、スバル姉、わたしはまだ出来る、まだやれるから・・・!!」 それを聞いたギンガが振り返りやさしく微笑みながらうなずく。スバルは一瞬きょとんとした顔をしたかと思えばすぐに いつもの精悍な笑顔を見せる。 「うん、それでこそ私の妹だよ」 「・・・ああ」 「スバル、私の右に、ノーヴェは左に」 ギンガが指示を発する。すぐにスバルが位置に付き、遅れてノーヴェが位置に付く。 二人のデバイスと直接リンクする。 <大丈夫ですか?> リンクしたマッハキャリバーが心配して聞いてくる。 『大丈夫だ、けどうまく機動出来ないかもしれないからサポートしてくれ』 <了解。お任せください> 「ミッドチルダ方面管区、108捜査警ら隊・第一捜査中隊、ギンガ・ナカジマ曹長!!」 「スバル・ナカジマ陸士長、陸上総隊総監直轄、特別救助隊所属!!」 「末妹、ノーヴェ・ナカジマ、ミッドチルダ方面管区第757調査捜索部隊、えーと・・・本部班の備品!!」 名乗りを上げた後、三人がそれぞれウイングロードとエアライナーを展張。 「「「行きます!!」」」 三人同時に加速。一人たりとも遅れることは無い。すべてが一致した加速。 目標は一つ、末妹を傷めつけてくれた一機!! 先頭は長女のギンガが受け持ち、相手に向かって突撃する。右翼、やや下がった位置にスバル。 『ノーヴェは立ち位置を変えて、ギン姉と私のシールドの内側に!!』 『了解、スバル姉!!』 目標となった一機は誘導弾と火器で弾幕を張り、中量二脚の利点を活かし高機動を活かして左右に上に動く。 動き回る相手の張る弾幕を大きいダメージを受けているノーヴェには破片ひとつでも致命傷に なりかねないための処置。 『接近すればグレネードランチャーは使えないわ。接近戦で撃破します!!』 『『了解!!』』 三人で息を合わせて正面と左右から相手の逃げ場を無くしつつ追い込み、相手を撃破する。 三姉妹の特性を活かしたは取れないが、三姉妹がリンクしおそらくは誰にも真似が出来ない正確に動きは出来る。 「トライシールド!!」 まずはギンガが近接戦闘を挑む。シールドでパルス弾に誘導弾、すべてを受け止め肉迫。 『すごい・・・。やっぱり防御魔法が使えれば・・・』 それを見たノーヴェが感想を漏らす。 ギンガは飛び上がる相手を逃さないようにウイングロードを展帳、さらにブリッツキャリバーで加速。 つづいて左手のリヴォルバーナックルのカートリッジをリロード。 魔力の籠められた左手の拳を打ち込む。 それを相手は右手の篭手で正面から受け止める。だがまだギンガの連撃は終わってはいない。 「ブリッツキャリバー、カートリッジロード!!」 左手のリヴォルヴァーナックルを下げ、もう一度打ち込む。同時に右手に魔力を収束。 『ギン姉、それって・・・』 『スバル、ちょっと参考にさせてもらったわよ』 右手の魔力塊が形になっていく。スバルのように純粋な魔力弾ではなく杭のような芯を有した魔力弾。 「さすがに・・・、女の子にドリルは恥かしいわよ!!」 一応、あのドリルは恥かしいらしい。 サーベルが振り下ろされる。後退して回避。髪の毛が何本か焼かれる。 「ボディブレイカー!!」 収束した魔力弾を左手で打ち込む。細い一本の黄色の軌跡を残して飛んで行く。狙ったのは腰部。 一直線に飛び命中、直撃。だが当ったのは狙った腰では無く、左足の大腿部。 『慣れない事はやる物じゃないわね・・・。ノーヴェ、次!!』 「了解!!」 ノーヴェが目標のやや左正面、上側からブレイクライナーで接近 「さっきのお返し!!」 右手が光る。先ほどは外したが相手は元々ボロボロの機体。しかも左足は損傷、動きは制限されている。 「私だってやってみせる!!・・・ハンマーダウン!!」 相手がギンガにかまけていた隙を使って接近する。 隙を利用し思いっきり横合いから殴りつける。相手の左胸が思いっきりへこむ。 中の人間は間違いなく気絶する程の衝撃が入るはず。。 「まだまだ!!」 右を打ち込んだ反動を使い今度は左手を下からアッパーで打ち込む。 今度は相手の機体の鳩尾に入った左手を深く打ち込む。 『・・・何だ?この感触?』 一瞬動きに迷いが生まれたノーヴェを掴もうと両腕が動く。 「させないよ!!」 スバルが接近してくる。 「まだ早ぇよ!!」 言いながらノーヴェの右足が見事な軌跡を描き、回し蹴りが飛ぶ。 恐ろしいほどの衝撃が襲い掛かっているはず。それでもふら付きながら立つ、黒と赤の機体。 「なんて奴・・・」 「どんな構造してんだよ・・・」 ギンガが感嘆しノーヴェがあきれる。 「私が行くよ、ギン姉、ノーヴェ、離れて!!」 ギンガとノーヴェが離れ、目標と距離をとる。 それに換わって一直線に伸びるのは青い空の架け橋、スバルのウイングロード!! 「これで・・・、最後!!行くよ相棒!!」 <了解、ロードカートリッジ> 右手のリヴォルバーナックルのカートリッジを二発。 相手は安定せぬ機体を必死に安定させ左肩のグレネードランチャーが発射体勢に入る。 命中時の爆風で自身もダメージを受けるはずだが、もはや形振り構っていないらしい だが、そんなモノを気にもしないでさらに加速、突っ込む。 「リヴォルヴァー・・・」 さらにカートリッジをロード、魔力を高めて右の拳を振り上げる。 さらに至近まで近接した瞬間、相手はグレネードランチャーを発砲。 だが、それを殆ど一心同体のマッハキャリバーに身を任せて回避する。マッハキャリバーは スバルの動きを阻害しない最低限の動きを算出、実行。 「ナッコォォォーーーー!!」 正面から相手を吹っ飛ばす勢い・・・、実際に相手を吹き飛ばし、標的となった赤と黒の機体は 派手に地面を転がりながら壁に当って止まり、完全に機体をダウンさせる。 「やった?」 「スバル、まだ油断しない。ノーヴェ、相手の状況をスキャンして」 「・・・機体は停止してる、中のヤツまではわかんねぇ」 「了解。二人とも散開、警戒しつつ近づいて」 三人がゆっくりと近づく。 「再起動?気を付け・・・」 相手が立ち上がった。不気味なほどの執念のなせる業か、それとも何も感じることが出来ない者が扱っているのか。 「その機体でまだやるの?」 「どうしてもと言うのなら介錯して上げ・・・って、あれ?」 相手は片膝をついた。ゆっくりと倒れこむ。倒れこんだのと同時についていたセンサー類の 光も点滅を繰り返し、消えた。 「終わったぁ・・・」 ノーヴェがへたり込み、そして横になる。 「なのはさんの方も終わったみたいね」 「ノーヴェ、大丈夫?」 ギンガとスバルが心配して駆けつける。 「ごめんちょっと無理しすぎたみたい・・・」 「いいよ、ゆっくりして」 スバルはゆっくりと横になったノーヴェを楽な姿勢をとらせてやる。 ギンガはノーヴェの頭を撫でて妹の戦いを労ってやる。 「姉達・・・、ありがとう・・・」 ノーヴェが一言とポツリとつぶやく。 それを聞いたギンガとスバルは顔を見合わせると姉として最高の笑顔をノーヴェに返してやる 「ちょっと・・・ちょっとだけ、セルフチェックしてもいい?」 「いいよ、何かあってもお姉ちゃん達が守ってあげるから」 「・・・ごめん。セルフチェック開始、重要部品の破損箇所に対して自動修復モードを起動・・・」 そういうとノーヴェは目を閉じる。ひどく無防備な安らかな表情。 「寝ちゃったね」 「酷くやられちゃったみたいだからね。ゆっくり休ませてあげましょうか」 「うん!!」 スバルが横たわっていたノーヴェを持ち上げて背中におんぶしてやる。 「いい夢を見なさい・・・」 「・・・って、ええ?」 三人が落ち着いてた時、なのはの声が聞こえた。 二人が振り返るとなのはが潰した筈のもう一機がしぶとく立ち上がっていた。 「まだやる気なの?どんな精神構造してるのよ!!」 ギンガが率直な感想を漏らした。 「やっぱり時代劇とか見過ぎなの・・・」 ナカジマ三姉妹の名乗りと正面からの突撃を横目に見ながらもう一機の赤と黒の機体と向かい合う。 「・・・力を持ちすぎたもの」 「・・・へ?」 突然、相手がしゃべり始めた。野太い男の声で。 「・・・秩序を破壊するもの」 今度は若い女性の声。 「プログラムには不要だ・・・」 同時に完全に重なった男と女の声。よく聞くと雑音やノイズが混ざっている。 「あっちと男女二人組みって言うことね・・・。いいよ、どちらか分からないけど相手してあげる」 なのはは静かにレイジングハートを構え、相手に向ける。 「レイジングハート、ブラスタービット展開!!」 <展開します> 支援用にブラスタービットを二基、設定は火力支援。レイジングハートは射撃モードへ。 それに併せて同じく自身の周囲にアクセルシューターの射撃スフィアを展開。 「アクセルシューター、シュート!!」 先手を仕掛けたのはなのは。誘導弾のアクセルシューターで相手を包囲し、さらにブラスタービットで 相手の動きをけん制。自分は横に動き回り込む。 アクセルシューターの命中したことを示す明るい魔力光が照らす。 だが相手の機体はそんな事を気にも留めないかのように加速、残弾を回避し、誘導弾を連続発射。 なのはは自分を標的にした誘導弾を残さずアクセルシューターでたらい上げ、破片すら近づけない。 「射撃戦なら負けない!!」 カートリッジを一発リロード。回避した相手に向けて収束した魔力砲を発射。 しかし最小限の動きで回避され、背後の壁に着弾、爆発。 避けた相手は左肩のグレネードを連続発射、今度はなのはが回避する番。 「やるね!!」 一発目を回避。だが回避する機動を読んでいたのか二発目を正面から受ける。 <プロテクション> レイジングハートがオートでシールドを展開。この一人と一基のコンビの生み出す硬いシールドを 一撃で抜けるものは少ない。それが広く普及しているただの炸裂弾ならなおさら。 プロテクションの隙を突き高速で接近してくる機体。だがなのは落ち着いて対処する。 「レイジングハート、魔力刃を展開、接近戦を受けるよ!!」 射撃モードのレイジングハートの下部に銃剣のような魔力刃を着剣、槍のように-杖の筈だが-構えて 接近する相手に向かい合い、ついでアクセルシューターを展開。 袈裟懸けに下ろされる相手のサーベルをレイジングハートで相手の左二の腕を抑え、鍔迫り合いで受け止め、 アクセルシューターを後ろから回り込ませて相手を狙う。 今度は多数が命中、体制を崩す相手からアクセルフィンを使用して頭の上を取りカートリッジをリロード、 注ぎ込まれた魔力の薬莢は三発分。 「ディバイン、・・・バスター!!」 ブラスタービット収束された桃色の魔力砲が標的となった赤と黒の機体を包み込み、吹き飛ばす。 <命中、直撃です。大分至近でしたが大丈夫でしょうか?> 「大丈夫だよ、殺傷設定じゃないからちょっと痛いぐらいだから・・・。あっちも終わったみたいだしね」 そういいながらゆっくりと構えを解く。 <マスター!!> 突然頼りになる相棒が警告を出す。 「レイジングハート、どうかした・・・って、ええ!?」 もう一機がグレネードランチャーを向けていた。 「まだやる気なの?」 なのはが驚きながら再び構える。 『なのはさん、離れて!!』 突然通信が入る。なのははその言葉に反応、アクセルフィンで一気に上に飛ぶ。 次の瞬間、一条の光が通り過ぎた。それは直進し、グレネードランチャの砲身の中に入る。 瞬間、大音響と共に爆発が起こる。すぐ背中で起きた爆発にまた吹き飛ばされ、しこたま体を打ちつけながら 転がっていく機体。 「うわー・・・、絶対中の人って生きてないよね・・・」 スバルがもっともな感想をこぼす。 「エネさん?大丈夫?」 『何とか・・・生きてます・・・』 だがその瞬間、ピースフルウィッシュは機能を停止、強制的にエネを除装。 「・・・ごめんね、うまくつかってやれなかった・・・」 <気になさらずに> 「うん、修理代かかっちゃうね・・・」 <まったくです。あなたの治療費も> 「そうだね・・・。直ったら・・・、またお願いね」 <了解そのときはご協力いたします。システム待機モードへ移行> エネ自身の少なからず怪我を負っていた。ピースフルウィッシュもまた大破、全損に近い被害を受けていた。 「生きていたのね、よかった・・・」 ギンガは負傷したエネを気遣う。 「はい、気が付いたのは本当にさっきですけど・・・」 「体は大丈夫なの?」 「私よりこっちの方が・・・」 エネがドックタグ型の待機状態となったピースフルウィッシュを掌に乗せ示す。 「コアデバイスは基本的なコアさえ生きてれば修理は出来ますが、使用しているパーツによって お金はかかりますけど・・・」 「・・・よければ管理局で負担してあげようか?今回の発端はうちのスバルみたいなものだしねぇ・・・」 なのははノーヴェの世話をしているスバルの方を見る。良からぬ視線にスバルは気づかないふりをした。 「でもどこから出てきたんでしょう?エネさんのゲートから出てきたみたいですけど・・・」 スバルが違う話を持ち込む。 「そうだね、どこから出てきたんだろ?ギンガ、ちょっと見て来てくれる?」 「わかりました」 ギンガは一言言うとそのままブリッツキャリバーを転がし、ゲートを開放、奥へと向かった。 「何だ終わっちまったのか?」 入れ替わりで黄色の汎用魔導甲冑に身を包んだ地雷伍長がようやく合流した。 「遅すぎですよ、伍長・・・」 エネがぼやく。 「まあ、そっちの嬢ちゃんもヤツを相手に死ななかっただけ運が良かったと思っとけ。ヤツが伝説のレイブン、 アリーナの不死身のトップ・ナインボール、つまりハスラー・ワンだ」 その言葉を理解できたのはエネだけだった。 「あれがナインボール・・・?まさか・・・、何年も前に消えたと聞いてましたが・・・」 「まあ、生きてたのかどうか知らんが顔を拝んでみようか」 なのはとエネが倒した一機に近づいてハッチの開閉ノブに手をかけ、まわす。 「どんな顔をしてるか知らんが・・・、こいつはなんだ?」 除装した機体の中は空だった。 「スバル、そっちも開けてみて!!」 なのはの指示を受けスバルがノーヴェを負ぶったまま、接近、同じように開閉ノブをまわす。 「・・・なのはさん、こっちもです!!こっちも空っぽです!!」 「そんな・・・、確かに会話をしたよ?そうだよね、レイジングハート?」 <はい、間違いなく> 『なのはさん?』 「ギンガ?どうしたの?」 割り込みでなのはを呼ぶギンガの通信が入る、だが全員に受信できるようにしてある。 『先ほどは気づかなかったのですが、隠しゲートがありました。ここから出てきたんじゃないでしょうか?』 その通信にその場に居た全員が顔を見合わせた。 「ここ?」 「はい。よく見ると表面に滑ったような跡があります」 「どこに繋がってるんだろう?」 「こんな所にゲートがあったなんて・・・。伍長は知っていましたか?」 「いや、初めて知った。ここは古い施設らしが、大体調査は終わっていると聞いていた」 六人はギンガの発見した隠しゲートの前に立っていた。因みにノーヴェはまだセルフチェック中。 「古い施設なんですか?」 なのはが地雷伍長に聞き返す。 「ああ、話によると旧暦時代の施設らしい。新暦になってから付け足された施設もあるがな」 「へー・・・」 「セルフチェック終了。戦闘機動に制限つきで許可・・・」 「あ、ノーヴェ起きた?」 スバルの背中で寝ていた、セルフチェックを実施していたノーヴェが起きた。 「うん、大体大丈夫みたい・・・って、ハチマキ!!何してやがる!!」 どうやらおんぶされていたのが恥ずかしいらしい。顔を真っ赤にして暴れだす。 「わ、こら、そんなに暴れると・・・、わぁ!!」 暴れた表紙でノーヴェがスバルの背中から落ちる。だが落ちる前にギンガがノーヴェの体をキャッチ、 ゆっくりと下ろしてやる。 「もー、さっきはちゃんと『スバル姉』って呼んでくれたのに・・・」 「呼んでねぇよ!!」 「ちゃんと言ったよねー、マッハキャリバー?」 <はい、確かに。記録もちゃんととってあります> 「いや、あれはその・・・」 ノーヴェが顔を真っ赤にして俯く。 「ノーヴェ、体は大丈夫?」 「はい、制限付の戦闘機動でしたら可能です」 一応は指揮官であるなのはが確認する。 「あまり無理したら駄目よ?」 「うん、ギンガ姉・・・」 やっぱりギンガ姉は優しいな・・・。ノーヴェはそう思った。 「予定外の行動だけど・・・、とりあえず潜ってみようか?いくのは私とスバルとギンガで行こう。 ノーヴェはここで待ってるほうがいいね?」 なのはが決定を下す。 「そんな・・・、あたしはまだやれるって!!」 「ノーヴェ、指揮官の決定には従いなさい。今はなのはさんが指揮官なのよ?」 「・・・ギンガ姉、でも本当に大丈夫だから・・・、足手纏いにはならないから!!」 「伍長はここで誰も入らないようにしておいていただけますか?」 「それでこれは出るんだろうな?」 地雷伍長が親指と人差し指をあわせて丸いサインを作る。 「一定額を捜査協力費でお支払いできるでしょう。ですが後払いですよ?」 指揮官役ののなのはが一応契約を取りまとめる。 「構わんよ、だが期待はするな。俺はなんて言ったってアリーナの万年最下位だからな」 そういうと豪快に笑った。 『『『『・・・万年最下位なのにどうやって機体を維持したり生活してるんだろ?』』』』 エネ以外の四人は同じような疑問を頭に思い浮かべた・・・。だがそれを口に出すほど野暮ではなかった。 「あの私は・・・?」 「エネさんは無理しない方がいいわ。控え室に戻って休んでいたほうがいいよ」 「そうだよ。修理費とかは大丈夫、エネさんの分もちゃんと払ってあげる。・・・スバルのお給料からね」 「そんなぁ・・・」 「自業自得だろ・・・。わたしはそれで死にかけたんだからな・・・」 ギンガがエネを心配し、なのはが報酬を請負い、ノーヴェが恨めがましく言う。 「先頭はギンガ、マークスマンはスバル、次に私。ノーヴェは後衛で警戒。前進速度はそんなに速くなくて いいよ。壁とかに隠されている通路とかに注意。ノーヴェはレイジングハートと キャリバーズと直接リンクしてマッピングしておいて。みんな準備は良い?」 「「「はい!!」」」 三人が各々の利き腕を突き上げ返事をする。本当の姉妹ではないはずだが本当に良く似ている三姉妹である。 「よし、じゃあみんな行こうか」 なのはがレイジングハートを隠し通路にむけた。それを合図にギンガを先頭に暗い通路内に入る。 次にスバルが通路に入り自分の番になった時、後ろに立つノーヴェを振り返る。 「本当に大丈夫?」 「大丈夫です、戦闘機人がこんな事で倒れません」 「なにかあったら…、チンクちゃんやセインちゃんが心配するよ?冷たい事ばかり言ってるけどトーレさんも…」 「はい…、でも大丈夫です。戦って倒れたなら戦闘機人の本望だって、きっとみんな言ってくれますから…」 そういうとノーヴェは笑った。 『普段の生活の中で番感情表現が豊かな娘に育ったんだね。ナカジマ家の教育がいいのかな?』 自身の弟子とも言うべき子は相変わらず感情の起伏が表に出ない娘のままだった。 <マスター、彼女のポテンシャルは落ちています。やはり置いて行くべきでは?> 『彼女なら大丈夫だよ、レイジングハート。でも目を離さないであげて』 <お任せください、マスター> 「じゃあ行くよ。しっかり付いてきてね」 アクセルフィンを展開、一気に加速して先発した二人を追う。 「遅れるかよ…!!」 ノーヴェは三人の後を追う。ジェットエッジを加速させ通路の闇へと消えていった。 「さて、じゃ仕事をするとしますか・・・」 四人が通路に消えた後、地雷伍長がぼやき機体を着座させる。 「仕事って・・・、なんで座ってるんですか、伍長?」 「まあ仕事はここで監視してろって事だろ?それに今、この施設に入ってこれるやつは居ると思うか?」 「それはそうですが・・・」 今現在、シャッターが施設の通路の大半を閉鎖している。今頃来たレイヴンは必死に開けようと苦労しているのだろう。 「分かったらお前もとっとと控え室に戻って応急処置して休んでおけ」 「そうですね・・・、じゃあいったん戻ります」 エネが踵を返して戻る。 「ああ、ちょっと待て」 地雷伍長が呼び止める。 「入っていったあいつらが帰ってきた時の為に茶とか軽食を用意しておいてやれ。それと・・・」 一瞬区切って考える地雷伍長。 「誰か来たら軽食と魔法瓶に入れたコーヒーを俺のところに持って来させてくれ。ただ待つのは勘弁だ」 それを聞いて了解の返事のつもりか崩れた敬礼と笑顔を返すとエネはそのまま通路を歩いていった。 歩いていったのを確認して地雷伍長は頭部ハッチを開放腰部の雑具箱から器用にタバコとライターを取り出し、 一本吸い始め、紫煙を吐き出す。 「まさかとは思うが・・・、こいつは本部か例の秘密工場への隠し通路じゃなかろうな?」 地雷伍長の呟きを聞いたモノは彼のデンジャーマイン以外、誰も居なかった。 戻る 目次へ 次へ
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【魔法少女リリカルなのはFINAL WARS】 蒼天の書 柊かがみに支給されたボーナス支給品。 リインフォースⅡ専用の魔導書型ストレージデバイスで、主に儀式系を含む多くの補助魔法が記されている。 全容量の半分程度をリインフォースⅡ個人では使用しない融合時用の魔法データが占めている。 トカレフTT-33 エリオ・モンディアルに支給。 全長194mm・重量858g・口径は7.62mm×25・最大装弾数8というソビエト連邦陸軍が1933年に制式採用した軍用自動拳銃。 本来必須なはずの安全装置すら省略した徹底単純化設計且つ生産性向上と撃発能力確保に徹した構造をしている。 さらに過酷な環境でも耐久性が高く、それに加えて弾丸の貫通力に優れている。 第二次世界大戦中~1950年代のソ連軍制式拳銃として広く用いられた拳銃であり、正確な総生産数は不明ながらコルト ガバメントと並んで『世界で最も多く生産された拳銃』と称される事もある。 FINAL WARS内ではラドンに襲われた町で半裸に豹柄のコートというギャングっぽい黒人風の男性が所持していた。 リインフォースⅡ 早乙女レイに支給。 時空管理局空曹長にして、はやてが創り出した人格型ユニゾンデバイス。身長約30センチで、長い銀髪を持った少女の姿をしている。魔導師(作中では主にヴォルケンリッター)とユニゾンすることで、その能力を飛躍的に向上させることができる。また、彼女自身もストレージデバイス「蒼天の書」を用いた戦闘が可能で、主に氷結系魔法を得意とする。 天真爛漫な性格で、語尾に「~です」とつけるのが特徴。また、「よく食べてよく寝る」とのこと。参加者には、鞄型移動寝室(通称「おでかけバッグ」)に収納された状態で支給されている。ちなみに、この時も眠っていた。 【なのは×終わクロ】 Ex-st 高町なのは(StS)に支給。 新庄・運切の武器。白い砲塔に似た杖型のストレージデバイス(という名の概念兵器)。 砲門を取り換えて多様な砲撃ができる。威力は使用者の意志に比例する設定となっており、望みさえすれば自壊する程の大威力も発揮できる。 1st-Gの賢石 ブレンヒルト・シルトに支給。 賢石とは概念を媒体に記録させた物で、所有者を変調させる事無く概念を付加、デバイスの燃料にもなる。 1st-Gの概念『文字には力を与える能がある』を媒体とした物なので、通常空間でも1st-Gの術式が使用可能となる。 板型概念展開装置 キース・レッドに支給。 周囲の空間に概念を展開する金属製カード(簡単に言えば一定区域に特殊能力を付け足すアイテム)で、これは「―――惑星は南を下とする。」という概念のもの。 発動すれば一定区域は南方が下、北方が上になる様に地面が垂直になる。発動時に前記の文章(概念条文という)が効果範囲内にいる者の脳裏に響く。 本来はこれが発動している空間と現実空間は出入り不能になる。 ただし本ロワでは出入り自由で効果エリアは半径100m・効果持続時間は10分とする。使用回数1回。 レークイヴェムゼンゼ ヴィヴィオに支給。 1st-Gの魔女ブレンヒルト・シルトのデバイス(概念兵器)。意思はある。 普段は待機形態で三日月型の飾りがついたチョーカー、他に戦闘用の大鎌形態と飛行用の箒形態がある。 冥界との境を開いて死者と話せたり、一時的に実体化させる機能がある(ここで呼び出せる死者は元々の1st-Gの住人+この地で死んだ者)。 録音機 ギンガ・ナカジマに支給。 記録用のメモリ式携帯録音機(バッテリー式)。本来の持ち主は佐山・御言。 【小話メドレー】 スモーカー大佐のジャケット 八神はやて(StS)に支給。 海軍本部所属のスモーカー大佐の着ているジャケット。 オプションとして大量の葉巻と先端に海楼石を仕込んだ七尺十手が付いている。
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リリカル・グレイヴ 番外編 「ツギハギと幽霊と女の子」(前編) 静寂の支配する夜闇の中、シンシンと雪が降る町を歩く奇妙な二人の男がいる。 一人はツギハギのある古ぼけたコートを着込み、両の目を塞ぐ眼帯に顔にすら傷を縫った跡がある全身ツギハギだらけで白髪の男だった。 男の名前は屍十二(かばね じゅうじ)、故あって旅をする死人兵士。 そしてもう一人の男は赤いレザーの上下にエレキギターを担いだ(厳密に言えば担いでいる訳ではないが)金髪リーゼントの陽気そうな男。 ロケット・ビリー・レッドキャデラック、エレキギターBL20000V(ブルーライトニング、トゥエンティサウザンドボルト)に憑依する愉快な幽霊だ。 ある理由によって様々な世界を旅するこの二人は偶然立ち寄ったこの町でとある少女に出会った。 それは幼き召還師、里を追われた悲運の少女キャロ・ル・ルシエである。 雪に彩られる夜の町の片隅で少女は嗚咽を漏らしながら一人寂しく泣いている。 その震える肩と、頬を伝い流れ落ちる涙の雫はどこまでも儚げで、見る者の心を揺らさずにはおかない。 そのキャロの様子に十二は苦々しい表情を浮かべる。 眼の見えぬ彼は視覚を除く様々な感覚で外界を把握している、故にキャロがどれだけ心の底から悲しんでいるかが分かるのだ。 そして十二はボリボリと乱暴に頭を掻きながらキャロに声をかけた。 「なに泣いてんだメスチビ、うるせえから静かにしてろや」 最悪に乱暴で粗雑な言葉、それでも声をかけられたキャロに彼の言葉にはどこか温かさが滲み出ているような気さえした。 十二の言葉に驚いて振り向いたキャロは唖然として十二とビリーの二人を呆けたように眺めている。 するとビリーがまるで空気を入れ替えるように、陽気に喋りだす。 「おいおいジュージ~、可愛いレディにそりゃ無いぜ?」 「うっせえ、辛気臭く泣かれてちゃあ迷惑なんだよ」 「相変わらず口が悪いなぁジュージ‥‥‥さて可愛いお嬢さん、君の瞳に涙は似合わない良かったら訳を聞かせてもらえないかい?」 ビリーはそう言うと丁寧に頭を下げてキャロの前に跪いた。 △ 「ふむふむ、なるほどねぇ~。住んでた里を追われたと‥‥それは災難だったね、まったく君みたいな可愛いレディになんて事を」 十二とビリーはひとまずキャロの暖をとる為に場所を近くの喫茶店に移し、彼女からその身の上話を聞いた。 ちなみに異様な風体の客に店員一同が不審そうな目で見ているが、そんな事を気にする十二とビリーではない。 そしてキャロは注文した温かい紅茶を飲みながらやっと泣き止んで落ち着いたが、彼女の身の上話を聞いた十二は最悪に機嫌の悪そうな顔をしていた。 「おいメスチビ、てめえの里とかいうのはどこにあんだ?」 「“メスチビ”って、酷いです‥‥‥それよりそんな事聞いてどうするんですか?」 「決まってらぁ、殴りこんでてめえを引き取らせる」 十二はそう言うと手をポキポキと鳴らして凶暴な空気を放つ。 この男は冗談抜きで実行しかねないから恐ろしい。 その様子にビリーは“やれやれ”と言って肩をすくめる。 「おいおいジュージ、お前って奴はどうしていつもそう暴力的なんだ。もう少しスマートに行けないのか?」 「うるせえぞRB、こんな小せえガキをおっぽり出す奴らなんざ軽くボコって何がワリいんだよ」 宥めようとするビリーに向かって十二は怒りを剥き出しにして吼える。 十二とビリーのこのやりとりに、事の発端であるキャロは慌てて割って入った。 「あ、あのっ! 別に良いんです。私のせいで‥‥里のみんなに迷惑は掛けたくないですから‥」 「でも良いのかい? これから一人で生きていくなんて」 「はい‥‥みんなに迷惑をかけるくらいなら‥‥」 十二に向かって説得するキャロだが、言葉尻の語気は弱弱しい。 ある日突然、寒空の中に一人故郷を追われた孤独だろう、キャロの瞳はうっすらと涙で濡れて肩は小刻みに震えている。 それでも自分の故郷に迷惑をかけるくらいならば、一人孤独に耐える道を行こうと言うのだ。 十二は苦虫を噛み潰したかの如く、実に機嫌の悪そうな顔をして席を立つ。 「おい行くぞRB」 「っておい、ジュージ~」 止めようとするビリーに目もくれず十二はズカズカと店の外の出て行く。 キャロはまた一人になる寂しさに泣きそうな顔になる。 だが十二は一旦立ち止まるとキャロに向かって声をかけた。 「何やってんだメスチビ、早く来ねえと置いてくぞっ!!」 「えっ!? あ、あの‥‥それってどういう‥」 「お前どうせ行くアテなんか無えんだろうが。なら俺らと一緒に来やがれって言ってんだよっ!」 「でも‥‥そんな、屍さん達に迷惑かけちゃ‥」 「チビがいっちょ前にゴタク言ってんじゃねえぞゴラァ! さっさと来いボケナスが!!」 十二はキャロの頭を軽く小突くと、手を引っ張っていった。 素直になれない十二の親切さにビリーは思わず苦笑する。 こうして、ツギハギだらけの死人とエレキギターに憑いた幽霊そして竜召還師の女の子という奇妙な一団の旅が始まった。 続く。 目次へ 次へ
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ホテル・アグスタ襲撃事件、後にそう呼ばれる事となる今回の事件は、一夜にしてミッドチルダ全土を震撼させた。 事の発端はオークション会場でもあるこのホテルにガジェットが襲撃、更にその後に現れた魔導師の手によってアグスタは崩壊、 警備に当たっていた管理局員のうち、六課前線メンバーは奇跡的にアグスタの瓦礫の中から救出されたのだが、 本局の局員は被害を被り、死傷者・行方不明者合わせて数十名という未曾有の大惨事となった。 そして今回の警備責任者で六課の部隊長でもある八神はやては、数日後に開かれる六課の是非を問う審議会を控えていた。 リリカルプロファイル 第十七話 手札 事件から数日後、此処六課の訓練所にはヴィータとなのは、そしてティアナの姿があった。 だがその中にスバルの姿は無く、なのははスバルの事をティアナに問いかける。 「ティアナ、今日もスバルは……」 「……はい」 襲撃事件から三日後、目を覚ましたスバルは部屋に引きこもり、食事も睡眠すら取らずにいた。 そんなスバルの様子を心配したティアナはスバルに優しく話しかけるが、 スバルは暫く一人にして欲しいと一言呟くと、じっと一点を見据え指にはカシェルから貰った指輪がはめられていた。 ティアナは、…今スバルには一人の時間が必要なのだろう…と考え、スバルの言葉に応じ部屋を出て別の部屋で寝泊まりする事となった。 しかし訓練所や何処かへ行く際には必ず、スバルに声を掛け毎日食事を届けているのだが、未だスバルの傷は癒えぬまま現在に至っているのである。 そして今日も訓練所に来ないスバルに対し、ティアナは落ち込む表情を見せながら俯き口を開く。 「スバルはもう……駄目かもしれません………」 「ティアナ……」 ティアナは思わず悲観的な言葉を口にする。 …スバルはきっとカシェルの死を受け入れる事が出来ないでいる、そして今ある現実から逃げている… スバルの様子を改めて思い返し、そう考えるティアナ。 するとなのはは、瞳を閉じゆっくりと息を吐く、そして瞳を開くとティアナに語りかけるように言葉を口にする。 「ダメだよ…ティアナがそんな事言っちゃ」 その言葉にティアナは顔を上げると、なのはの瞳は怒りとも哀しみとも取れる色を宿していた。 そしてなのははティアナの肩に手を当て話を続ける。 「ティアナはスバルの友達なんだよ?」 「なのはさん……」 「それに…スバルの傷を癒せるのはティアナだけなんだから」 なのはのその言葉は、ティアナの過去を知っているからこその発言であった。 “大切な者を失う痛み”それを知っているティアナだからこそ、スバルの力になれるハズだとなのはは語る。 その言葉にティアナは俯き目を閉じる、…今まで自分はスバルが現実から逃げていると思っていた。 だがそれは違っていた、自分もまたスバルから逃げていたのだ…と。 ティアナは何かを決意したかのように頷き顔を上げる、するとその表情には迷いが無く決意に満ちていた表情を表していた。 「なのはさん!私スバルの所に行ってきます!」 「うん分かった、いってらっしゃいティアナ」 なのはの了承を得たティアナは、早速スバルがいる部屋へと向かい、その後ろ姿を見届けるなのは達。 辺りが沈黙に包まれる中、今まで黙っていたヴィータの口が開く。 「んで、どうすんだよ今日の訓練は」 「そうだね……今日は一日中ヴィータちゃんと模擬戦…かな」 「ゲッ!マジかよ!」 そう言ってヴィータの顔を見るなのは、その顔は笑みを浮かべていたが、 その目はまるで獲物を見つけ狙いを定めたかの様に細く鋭く光っており、ヴィータは思わず青ざめる。 あの敗戦後、なのは達は知らず知らずの内に己の力を過信していたと考え、それぞれ鍛錬を始めていた。 幸い此処六課には鍛錬に相応しい人物が集まっている。 そしてスターズはスバルがいない分、午前中は二人でティアナが動けなくなるまで鍛え上げ、 午後はヴィータとなのはが模擬戦を行う形を取っていた。 しかし今回はティアナがスバルの元へ向かった為、朝からなのはと一日中模擬戦へと変わったのである。 ヴィータは明日は筋肉痛は確実だなと考えつつグラーフアイゼンを起動させ構えるのであった。 一方ティアナはスバルがいる部屋の扉の前にいた。 ティアナは深く深呼吸をすると、覚悟を決めスバルが居る部屋へと入る。 部屋の中は暗くカーテンも閉め切っており、部屋の中心にはスバルが座り込んでいた。 スバルの目は虚ろで隈が出来ており一睡もしていない様子で、後ろには朝ティアナが持ってきた弁当が手つかずに置いてあった。 スバルは通常勤務なら四・五日寝なくても平気なのだが、今のスバルは 苦悩や悲観や憎悪、そしてカシェルへの想いが頭を駆け巡り、精神的に疲弊している状態なのである。 そんな目を背けたくなる様子のスバルだが、ティアナは真横へと近づき両膝を付く形で隣に座る。 そして辺りは沈黙に支配され、一分すら悠久の時の長さにすら感じる部屋の中でスバルの口がゆっくりと開き始めた。 「……ティア」 「…うん」 「私ね…カシェルの事、好き……だったんだと思う…」 そう言うとスバルはカシェルとの思い出を話し出す。 最初はただの男友達だった…しかしカシェルは優しく、色々と手を貸してくれた。 一緒に訓練や学習をしたり、自主練に付き合ってくれたり、宿題に付き合ったり…それに食事を奢ってくれた事もしばしばあった。 そしてそれらが積み重なっていくうちに、自分に兄が出来たような感覚を覚えたと。 自分には二つ上の姉がいる、それ故にカシェルに姉の面影を重ねていたのかも知れない…その事をカシェルに話してみると、 微笑みを浮かべ、スバルの頭を撫でながらカシェルもまた自分の事を妹のように思っていると答えたと。 そう嬉しそうな雰囲気で思い返しているスバルにティアナは問いかけた。 「今でもカシェルを兄として?」 「……………分かんない」 今スバルの胸の内に広がるカシェルへの想いは兄としてなのか、男としてなのか…今はもう判断出来ない。 だがどちらにせよ、カシェルといた時間は、何よりも充実していたとスバルは微笑みを浮かべながら語るが、すぐに笑みが消え暗い表情に変わる。 カシェルの励ましもあり六課に編入したスバルは強くなる為に努力し、またいつかカシェルと会える事を楽しみにしていた、だがその願いは無惨にも打ち砕かれた。 カシェルは見るも無惨な姿となってスバルの前に敵として現れた。 その時自分はカシェルに対し何も出来なかった、カシェルを救い出すことも、カシェルを苦しみから解放させる事も… そして今、カシェルの為に何が出来るのか自分は悩み続けていると囁くように語った。 「ねぇ…ティア……」 「うん?……」 「私…カシェルに何をしてあげればいいんだろう」 スバルの言葉にティアナは瞳を閉じ考え込む、そして五年前の自分を思い出していた。 …あの時、兄を無くした自分は涙が枯れるまで泣いた。 犯人を恨み復讐を誓おうともしたが、犯人は自首し更に自殺した為それすら適わなかった。 そして兄の為に自分が出来る事…それは兄の夢を引き継ぐ事、その決意は“大切な者を失った痛み”を和らげ今に至っている。 そしてスバルは五年前の自分と同じ状況にいる、しかしスバルと自分では大きな違いが一つ在る。 それは敵討ちの相手がいる事だ、だが心優しいカシェルが復讐など望んでいるハズがない。 ならばスバルがカシェルに出来る事は一つしかない、そう考えるとスバルの肩に手を当て優しく答えた。 「……それは勿論、カシェルの為に泣いてあげる事よ」 スバルが泣いて悲しんであげる事でカシェルが生きていた“証”になるとティアナは語る。 その言葉にスバルはティアナの顔を見上げる、ティアナは優しい笑みでスバルを見つめていた。 スバルはティアナのその表情にカシェルの陰を見ると、今まで胸の内に溜めていた様々な感情が込み上げていく。 そしてティアナの肩を掴み顔を胸に埋めると、込み上げた感情が声となり涙となってティアナの胸の中で解き放たれた。 「っ!…カ…シェル……うっ…うぁぁああああああああ!!!」 スバルは泣いた…泣き叫んた…声が枯れる程に…涙が枯れる程に… そして…その感情を優しく包み込むようにスバルを抱き締めるティアナ。 「強くなろう…スバル……」 ティアナの言葉に頷きつつ涙を流し続けるスバル、それを全身で受け止めるティアナであった。 それから数日後、八神はやて率いる六課の是非を問う審議会が此処本局にある審議室にて行われる事となった。 部屋は広く、はやてを中心に左の席にはクロノ提督、レジアス中将、カリム少将と並び、右側の席には伝説の三提督の姿があった。 そして審議席にあたる後方の位置には複数のモニターが設置されており、管理局の一佐から三佐までの顔を表示されていた。 だがその中にはやてが師匠と呼ぶゲンヤの姿は見受けられなかった。 そしてはやての正面には巨大なモニターが設置されており、更に上には左から順に青・赤・黄色の最高評議会のエンブレムが映し出されたモニターが設置されていた。 そして巨大モニターの隣には竜を模した杖を携える老将の姿があった。 ガノッサ提督、かつて伝説の三提督と共に一時代を築き、生涯現役を今も貫き通す、自称神を屠る者と呼ばれる人物である。 今回はガノッサが審議の中心となって指揮を取るようである。 …そして開始時間になり審議会が開幕された。 「これより六課の是非を問う審議を執り行う」 まず今回のアグスタ襲撃によって被った被害は本局の局員数十名、ホテル・アグスタの崩壊、そして歴史的価値のあるロストロギアの破損・消失などが上げられた。 そして今回はやては六課…いや管理局の切り札とも言える能力リミッターを解除を承認した。 しかし結果は上記の通り、その被害結果により、はやての指揮官能力へと審議は移る。 するとモニターの審議者達が今回の結果に対して次々に述べ始めていた。 「…所詮二佐とはいえ小娘、部隊長としての技量など知れたものだったのでは?」 「いくらレアスキルを持っていてもな…些か特別扱いし過ぎたのではないだろうか」 「そうかもしれんな…それに彼女は闇の書事件の当事者であるしな」 するとクロノはモニターの審議者の最後の言葉に対し、手を挙げ異議を唱える。 「待ってくれ!今回の審議の内容ははやての指揮官能力の是非についてだ!闇の書の事件は関係ないハズだぞ!!」 クロノの言葉に一同はざわめくと、ガノッサは静粛を促し更に話を続ける。 今回において能力リミッター解除は結果的に有力ではなかった。 つまり貴重な切り札を無駄に切ったと言うところにある。 それは指揮官としてどうなのかはやてに問いかけると、はやてはこう答えた。 「確かにあの場で切り札を切るんはどうかと思いました、せやけどあの時あの犯人、 レザードをこのままにしとくんはミッド…ひいては次元世界全てに被害が被ると思うたからです」 はやての力強い発言に頷くクロノとカリムに対し、ガノッサはエンブレムが映し出されているモニター、最高評議会に問いかけると赤いモニターが反応する。 「如何しましょう?最高評議会の皆様……」 「……古代遺物管理部第六課の解散を要求する」 「何故ですか!」 最高評議会の決定に今度はカリムが申し立てる。 六課は設立して数ヶ月のうちにロストロギアであるレリックの回収や、リニア事件から姿を現した不死者の解析など、様々な功績を立てたと。 今回の失態一つで今すぐ解散を促すのは如何なものかとカリムは主張する。 するとカリムの主張に黄のモニターが応え始める。 「確かに古代遺物管理部第六課は設立されて日が浅いうちに様々な功績を立てた。 だが…今回の失態はそれらの功績を積み上げても手に余るのだよ」 故にこの様な判断を下したと語り、その判断に不服はないかとガノッサは問いかけると、はやては口を開く。 「…確かに今回の失態は大きいと思います、せやけど六課のみんなは頑張って仕事をしております! それにこれからの事を考えれば六課の存在は必要なるん思います! せやからお願いです!今回の失態、私の首一つで片付けてもらえませんか?」 「……状況を飲み込めて居ない様だな八神二佐、事態は貴様の首一つで収まる状態では無いのだ」 はやての申し出に対し今度は青いモニターが話し始める。 今回の六課の失態で、民衆は魔法に対し大きな不信感を抱きつつある。 管理局は魔法に対し質量兵器とは異なり比較的クリーンで安全な手段だと謳っていた。 しかし今回の事件によって魔法による破壊工作及び殺人行為が可能だという事が、露呈し広まってしまったと。 その情報は管理局の意向に反した情報、しかも一夜にして全土に知れ渡ってしまった。 その発端を作ったのが六課であり、あの男レザードの所業であると。 レザードはアグスタを魔法によって崩壊させ、更に失踪事件を引き起こし失踪者を用いて不死者を製造した人物でもある。 そんな人物がミッドチルダに潜伏している、次は何処を狙われるか…誰が狙われるか…民衆は不安で仕方がない。 そしてそれらを払拭する為にも、今回の事件を招いた六課の解散は否めないと語る。 「元々古代遺物管理部第六課は実験的に設立した部隊、そして…このような失態を生んだ部隊に最早存在価値など無い」 最高評議会は吐き捨てるように事実を叩きつけると、はやては何も言えず萎縮する。 そんなはやての姿を後目に、ガノッサは最高評議会の意向を受け六課解散を宣言した。 次にはやてに対するの処分の審議を始めようとすると、レジアス中将が割り込むように挙手する。 「何かな?レジアス中将…」 「八神二佐の処分、それは儂に任せて貰えんか」 思わぬ人物の提案にガノッサは顎に手を当て考え込む。 …あのレジアスが自ら動くとは、だがあの男ならば甘えなど無く処分を言い渡すだろう… それに今のはやては本局にとっては“害”に過ぎない、それ故に地上本部が引き取ってくれるのであれば願ってもない事かも知れない。 その旨を最高評議会に話してみると満場一致で了承し、八神はやての処分はレジアス中将に一任する事となり審議会は閉幕した。 「では八神二佐、ついて来たまえ」 レジアスはそう言うと席を立ち、はやてはレジアスの言われるがまま、ついて行く事となった。 それを苦虫を噛み締めるような表情で見つめるクロノ達であった。 …審議会を終えたクロノは自分の船、クラウディアへと戻りブリッジへ続く通路を歩いていた。 そしてブリッジへと辿り着くと、金髪の青年がクロノを出迎える。 彼の名はロウファ、本局の一等空尉でクロノの補佐を務めている。 クロノは席に座ると深くため息を吐く、その様子にロウファは質問を投げかけた。 「お疲れさまです艦長、審議会はどうでしたか?」 「…どうもこうもないな、あれではただの吊し上げだ」 今回の審議の結果に頬に手を当てふてくされた様子で話すクロノ。 今回の審議会はまるで六課の失態を期に解散させようとする雰囲気に満ちていた。 そして結果的に六課は解散を余儀なくされ、はやては本局から追い出される形で地上本部に出向になったと。 一通り説明を終えたクロノであったが、未だその顔は不機嫌なままであった。 其処へお茶を持った那々美一等陸士が姿を現す。 「艦長、お茶を用意いたしました」 「あぁ、すまない那々美」 クロノは手を伸ばしお盆からお茶を持つとゆっくりと啜る。 するとクロノの口の中に甘ったるく濃厚なミルクの味が広がり、思わず喉を詰まらせる。 何故ならその味はかつて母が飲んでいたお茶の味をしていたからだ。 その味にクロノは那々美に問いかける。 「なっ那々美、このお茶は一体?!」 「この前送られて来たんです、緑茶ラテと言うそうです」 送られてきた緑茶ラテの量はダンボール一箱分、送り主はリンディ・ハラオウン、クロノの実の母親である。 そして同封された手紙にはこう記されていた、【疲れた時には甘い物をとって疲れを癒してね】と。 クロノは思わず頭を押さえる、何故ならばクロノは甘い物は苦手であるからだ。 更に量はダンボール一箱分、確かに疲れている時には甘い物は有効だ。 だがそれにしたって量が半端ではない、寧ろ糖尿病に掛かってしまうレベルだ。 クラウディアにはクラウディアで新たな問題が発生したとクロノは頭を抱え左右に振ると、オペレーターである夢瑠一等陸士が暗号通信を受信したとクロノに伝える。 「誰からの通信だ?」 「え~っと、ガノッサ提督からみたい……です!」 クロノの指示のもと夢瑠は暗号を解析、通達された内容は指定された場所と日時に信頼できる部下を一人引き連れて来るようにという事であった。 その内容にクロノは腕を組み考え込む、あのガノッサ提督からの通達ではそうそう無碍には出来ない。 クロノは半ば諦めに近い形で内容を受託、早速クラウディアは指定された場所へと進路を取り始める。 その中、ロウファはクロノに問いかけた。 「それで現場には誰と?」 「そうだな…ジェイクと、だな」 「成る程、あの人なら安心ですね」 クロノの放った名に納得するロウファ、ジェイクリーナス一等陸尉、数々の実績と経験を兼ね備え、教官資格も取得している人物である。 そしてクロノ率いるクラウディアチームは一路ガノッサが指示したポイントへ向かうのであった。 場所は変わり此処はゆりかご内のレザードの施設、中ではレザードが入手した操呪兵設計図面を基にゴーレムを作成していた。 その中何かに気が付いたレザードが声をかける。 「覗き見とは感心しませんね、セイン……」 そう言うと床からセインが飛び出すように出て来た。 レザードはセインを横目に頭を横に振る、どうやら訓練から逃げ出してきた様子だ。 「またサボったのですか?仕方がない人ですね」 「だって私偵察型だよ?戦闘型と一緒に訓練したらコッチが持たないよ」 「やれやれ…そう言えば、黄金の鶏はどうしています?」 「コッコの事?今日はウェンディが面倒を見ているよ」 コッコとは黄金の鶏のあだ名らしく、コッコの面倒はナンバーズが一日交代で面倒見ていると。 そう言うとセインはレザードが作成しているモノに目を向ける その姿は頭部が小さくモノアイで、上半身は巨大で腕は太く、下半身には足の代わりに浮遊体のような球体が二つ付いた姿をしていた。 「…博士、これは一体何です?」 「これですか?ゴーレムですよ」 「あぁ、例の設計図の」 セインの言葉に頷くレザード、しかし設計図通りに造るのは面白くないと考えガジェットの技術やアレンジを加えていると話す。 ゴーレムの動力源は人造魔導師の技術を応用しリンカーコアを起用、 表面の装甲は軽くて強固なミスリル銀、内部材質は弾力と耐久力を持つダマスクス、そして頭部・腕の外装甲は特別にレザードのデバイスと同様オリハルコンで造られていると。 そしてリンカーコアを搭載させている事で、ある程度の魔法を使用する事が出来る。 そして今の完成度は80%と自慢げに語った。 「へぇ~、それでコレって名前あるの?」 セインの言葉に考え込むレザード、確かに名前が無けれは色々と不便である。 そしてどんな名前にするか考えていると、かつて自分が造ったホムンクルスの名を思い出し、思わず苦笑する。 「どうしたの?博士」 「いえ何でもありませんよ………名前ですが、ベリオンと言います」 「ベリオンかぁ」 そう言ってベリオンを見つめるセイン、すると入り口からウェンディの呼ぶ声が響く。 「あぁ!!こんなとこに居たんッスかセイン姉!トーレ姉がカンカンッスよ!」 ウェンディに窘められたセインはレザードに別れの挨拶を交わし足早に去っていく。 レザードはまるで台風にでも遭ったかのような印象を受けていた。 一方、審議会を終えた二人はハイヤーで地上本部へと向かっていた。 車内はレジアスとはやてが乗っており、カーテンは締め切られて、外の様子が全くわからない造りをしていた。 暫く車内は沈黙に包まれているとレジアスがはやてに問い掛ける。 「八神二佐、突然ではあるが、君はホワイトナイトという株用語を知っているかね?」 突然の質問に困惑するはやてだが、レジアスの質問に答える。 ホワイトナイトとは株用語の一つで、買収される企業にとって友好的な第三者の事を指すと。 はやては話し終えると今度はクラウンジュエルの事を聞いてくる。 クラウンジュエルとは、買収する企業において資産価値、収益力、事業力などが最も魅力的な部門を指すと答えた。 はやては一通り説明を終えるが、疑問を感じていた。 何故株用語を聞いてきたのか、まさか自分に株でもやれとでも言うのだろうか? そう考えているとハイヤーが止まり扉が開く、はやてはハイヤーから降りると此処はかつての機動隊の隊舎で、入り口にはゲンヤが出迎えていた。 はやては困惑していると、レジアスとゲンヤが付いてくるようにはやてに指示、三人は隊舎の中へと赴いた。 隊舎の中は綺麗に掃除されており、とても八年前の建物とは思えない作りをしていた。 三人は通路を道なりに歩いていると、ドアへと辿り着く。 そしてドアを開くとその光景にはやては唖然とする、ドアの先に広がる光景とは六課のロングアーチとよく似た施設が広がっていたからだ。 はやてが唖然としている中、レジアスがはやての処分を言い渡す。 その内容とは、此処機動隊の隊舎を基に新たな部隊の部隊長を任せると。 だがその任はまるで、もう一度六課を設立しろと言っている印象をはやては受けていた。 そしてはやては深々とお辞儀をし、大声で感謝の弁を述べる。 「有り難う御座います!こんな私に―――」 「八神二佐、何か勘違いしているようだな」 レジアスの言葉に頭を上げ首を傾げるはやて、レジアスの主張はこうである。 今回の事件で一番の問題点は六課の失態ではなくあのレザードという存在であると。 奴の存在によってミッドチルダの安全神話は崩壊した。 奴をこのまま野放しにすればミッドの地上は危うい、そこで今回の失態により株価が落ちたはやてに目を付けたという。 だが、はやてに現状に存在している部隊を渡すのはもったいないと考え、この様な処置を与えたと語った。 「機動隊は我が地上本部の汚点とも言える存在、つまり…本局の汚点と言える貴様に地上本部の汚点を与える、此ほどの相応しい処分は無いと思われるがな」 そう言って悪意に満ちた笑みを浮かべるレジアス、更に機動隊の隊舎を与えるという事は、最前線で戦ってもらう事の意味も含めているという。 何故ならレザードという前代未聞の犯罪者に、地上本部の局員を全面に押し出せば此方の戦力はがた落ちとなる。 それを防ぐ為の部隊でもあるとレジアスは付け加えた。 だがはやてはその言葉の裏に潜む意味を理解すると同時に、レジアスが車内で問い掛けた質問を意味を理解する。 レジアスは六課の存在を本局のクラウンジュエルとして見立てていた。 そして地上本部と言うホワイトナイトによって六課を回収する為この様な処置を行ったのであろう。 だが六課の再建は管理局…いやレジアスの株を下げ痛烈な非難を浴びる事になる。 しかしレジアスはそれを覚悟でこの様な処置に至ったと…するとはやての目に涙が浮かび上がっていた。 だがはやては涙ぐむ目を左腕で拭い敬礼を行う。 「八神はやて二等陸佐、謹んで処分をお受けいたします」 その返事を聞いたレジアスははやてに背を向けると、まずゲンヤが出て行き、レジアスがドアの前まで向かうと立ち止まり大きな声で独り言を喋り出す。 「しかし…今の時期に新たな部隊に戦力を渡してくれる者など居るだろうか? まぁ、いざとなったら最近解散した六課とやらの人材でもかき集めるがいいだろうな 何も知らぬ素人より役に立つかも知れんしな」 そう言うと後にするレジアス、その場にははやてが一人ぽつんと立っていた。 だがはやての顔は徐々に笑みを浮かべ始め、まるで子供が新しい玩具を手に入れた時のような表情を現していた。 「ヨッシャァァ!!やったるでぇぇ!!」 気合いとともに叫ぶはやて、六課はまだ終わってはいない、此処からまた六課を作り直す!…そう意気込むはやてであった。 その意気込みをドアの向こうで聞いていたレジアスとゲンヤ。 そしてゲンヤは通路を歩き出すと目だけをレジアスに向け呆れた口調で話す。 「相変わらず…大きな独り言だな」 「フンッ………」 ゲンヤの言葉に一言で答えるレジアス、そして二人は今度こそ、その場を去っていったのであった。 一方クロノはガノッサが指定したポイントに辿り着く。 そこは研究施設のようでクロノとジェイクリーナスは通路を進んでいくと突き当たりのドアに辿り着く。 其処には先に到着していたガノッサが佇んでいた。 ガノッサの隣には青髪の女性がおり、ガノッサの秘書を務めているようである。 ガノッサはクロノの姿を確認するとドアを開け中へと入る。 そしてクロノも後に続き中に入ると、部屋の中にはバリアジャケットや騎士甲冑を着込んだ男女十名が整列していた。 その姿にクロノはガノッサに問いかけてみると、ガノッサは秘書にモニターを起動させるように指示、 起動させたモニターには最高評議会のエンブレムが映し出されると、クロノの問い掛けにモニターが答えた。 ―――“人型デバイス”エインフェリアであると――― 前へ 目次へ 次へ
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恐怖心を感じなかったことなんてない。 いつも戦うのは怖かったし、別の次元世界にいる凶悪な魔法生物などは外見から既に恐ろしいものだった。 それでも戦えたのは皆を守るためだったから。大切な友達や仲間、助けを求めている人達のためだから戦えた。 けれどあの時から本当に怖くなってしまった。 大切な、本当に守るべき大切な人が、出来てしまったから。 死ぬのは怖くない。けれど自分が死んで彼女を一人ぼっちにしてしまうのは怖い。どうしようもなく怖い。 あの怪我でわたしはまた弱くなった。このままでは本当に死ぬかもしれない。絶対に死ぬわけにはいかないのに。 そんな悩みを抱えているわたしの前に、彼は現れた。 リリカル×ライダー 第九話『仮面』 俺は無断外出がバレてしまい、隊長室に呼ばれていた。 「……で、カズマ君はなんで外に出とったん?」 はやては珍しく怒っていた。真面目な表情を見た時も驚いたのだが、今回はそれ以上のものだった。 「俺は、その、外の空気が吸いたくて」 「それだけのためにわざわざヴァイス君のバイクを持ち出しとったん?」 はやてがこちらを睨み付けながら痛いところを突いてくる。流石ははやて、普段から口論で勝てた試しがないほどの弁達者だ。いや、俺が下手くそなのもあるだろうが。 ただ、今回はこちらも必死なのだ。負けるわけにはいかない。 「実は、怪物を倒そうと思って街を捜索してたんだ」 嘘は、ついていない。内容は事実そのものだ。 「……もしかして、この前の事件の?」 ティアナと出かけた時の、ローカストアンデッドの事件のことだろう。こいつのカードには色々と複雑な念を抱いてしまう。頼りにもなり、災いの種にもなる、そんな思いだ。何故かは分からないが。 閑話休題。 「俺なりに責任を感じたからな。でもごめん、皆に迷惑かけたな」 取り敢えず謝る。事実、彼女には迷惑かけっぱなしだ。この期に謝っておくべきだろう。 「――ホンマ頼むから心配かけんでや」 はぁ、とため息をつくはやて。部隊長として忙しいにもかかわらず迷惑かけたのは本当に申し訳なかった。 けれど、やめる気は全くないが。 「ところで、誰が気付いたんだ?」 「ん? キャロが気付いたんよ。芝生が荒れていたのを気にしててな」 そうか、と俺は納得した。 ・・・ 「ライダー……僕とカリスの決闘を邪魔したお前を、僕は絶対に許さない!」 空を舞う人影が羽根を引き抜く。高層ビルが乱立する、人工のジャングルとも言うべき街を見下ろしながら。 彼が思い浮かべるのは一万年前のバトルファイトと、十五年前の人間が起こした偽物の殺し合い。 前者はカリス――ハートのカテゴリーエースとの闘いを、後者は『仮面ライダー』と名乗る人間との戦いを想起させる。 カリスとはいわゆるライバルであり、バトルファイトに決着をつける際、戦おうと誓った仲だった。逆に『仮面ライダー』はその神聖な決闘を妨害した憎き敵だった。 「あの男が望む通り戦ってやろうじゃないか。そしてカリスを解放し、もう一度あの続きを――!」 彼は怒りを、そして決意を固めながら憎むべき人間を俯瞰する。 人影、否、雄々しい翼を伸ばした人ならざる者の影から、鋭利な刃物のような羽根が鋭く投げられる。それは煌く軌跡を描きながら地表へと吸い込まれていく。 またしても、クラナガンで被害者の絶叫が響いた。 ・・・ 「ダメダメですよ~! 一人で外出なんて~」 俺は訓練場に行きながらリィンにこっぴどく叱られていた。もっとも、身長30cm程度のリィンが怒っても可愛らしいだけだ。俺としては気にもならない。 「悪かったよ」 「もう、外出ならリィンがついていきましたのに~」 いや、それじゃ意味ないから。と心の中で突っ込んでみる。 そんな雑談をしている内に、俺は訓練場に辿り着いていた。 今日も誰もいない。皆捜査に奔走してるみたいだ。俺は日課の訓練をこなすためにリィンを連れて来ていた。リィンがいなければ訓練場の空間シミュレーターが制御できないからだ。 「じゃあ、いつもの続き、やりますよー!」 おー、と言って答えるが、当然やる気はない。ここの所、寝不足がかなり響いていて、ときおり眩暈すらするほどだった。 ――ドクン。 そう、こいつらのせいで。俺はあんな狂った力を使わなければならなくなるんだ。そのために睡眠時間が削られているんだ。 だが、今回の反応はいつもと違っていた。 ――ライダー……ッ! (まさか、上級アンデッドか!?) 上級アンデッド。 カテゴリージャック、クイーン、キングのアンデッド達のことだ。 奴らの最大の特徴は、絶大な力と前回の優勝者の生物への擬態能力。 奴らは前回の優勝者、ヒューマンアンデッドの一族、『人間』に擬態することができるのだ。つまり奴らは『人間』が持つ最大の武器、“知恵”を所有している。 「どうしたんですか?」 奴らはマズい。このままにはしておけない。訓練は後回しだった。 「悪い! 野暮用が出来た!」 「カズマさん!?」 俺は一気に走り出す。チェンジデバイスを起動させて腰に巻き付ける。 「変身!」 『Drive ignition.』 レバーを引っ張ると同時に、たちまち俺の姿は青の拘束着を思わせるインナースーツと不自然に肩と腹の部分が塗りつぶされた銀色のアーマー、そして甲虫を象った仮面が貼り付いたヘルメットという組み合わせのバリアジャケットに包まれる。 『Fry booster』 そして飛行魔法を発動し、背中のブースターを閃かせながら低空飛行で一気に飛び去ることにした。 (ライダー……?) 一つの単語が、妙に頭の隅に引っ掛かりながら。 ・・・ (カズマ君……) あの夜、見てしまった真実が網膜から離れない。 緑色のおぞましいと思わせる肌と、鋭い眼を隠すように付けられた透明なフェイスガード。そして鋭利な刃物を思わせる右腕から伸びた突起物。 彼の正体が、実は人々を殺戮する怪物だったなんて信じられなかった。 普段の彼は多少粗暴なところはあっても基本お人好しで、困った人がいれば迷わず助けにいくような人だ。そう、彼なはずがない。 けれど、もし彼が怪物事件の犯人なら。 (わたしが、何とかしなくちゃ) そう、わたしが機動六課を守らなくちゃ。そのための隊長であり、そのためのエースオブエースなのだから。 けれど、わたしは本当に戦えるのだろうか……? 「なのは、行くぞ!」 「あ、ごめん、ヴィータちゃん!」 ヴィータちゃんが赤いドレス型のバリアジャケットから伸びるスカートをはためかせながら怒鳴り声を上げる。後ろでスバルも手を振ってくれていた。 取り敢えずカズマ君のことは帰ってから。今は任務に集中しなくちゃ。 ・・・ 「ふん、来たか」 眼鏡をかけたインテリのような雰囲気を持つ男が、スーツを直しながら呟く。 巨大ビルの屋上ヘリポート。天を突く摩天楼に築かれた二人だけのコロッセウムにて、男は待ち続ける。 そして、彼は現れた。 銀色の装甲とブルーのアンダースーツ、甲虫を模した真紅の複眼が印象的な仮面。 だが男の目からは以前と節々が違うように感じられた。肝心な腹と肩の部分に描かれるはずのマークもなく、剣も形が異なる。 「お前が、上級アンデッドか!」 仮面の男――カズマが叫ぶ。 「待っていたぞ、ライダー!」 男もそれに答える。カズマの反応を見て、眉間に皺を寄せながら。 「……本当に覚えていないとはな」 男の呟きはカズマには届かない。 男は一度だけ首を振った後、顔を上げた。 その瞬間、男に変化が生じる。 一瞬にして、右手に鋭い鉤爪を付け、雄々しい翼を広げる、黒い鎧と羽毛に覆われた怪人に変化していた。 「……上級、アンデッド」 カズマが驚きの声を上げる。理解しているのと目の当たりにするのでは訳が違う、それを認識させられたというような声音だ。 一方の男――イーグルアンデッドはすでに鉤爪を構えながら大空に浮かび上がり、戦闘態勢を整えていた。 「いくぞ、ライダー!」 イーグルアンデッドが羽根を手裏剣のように投げ付ける。鋭利な羽根は肉を抉らんとカズマに襲い掛かる。 「くそっ!」 カズマも後ろに飛んで避けながら背中のブースターを噴かし、空中に上がる。 「ほう、フロートのカード無しで飛行できるのか」 感心しながら観察と羽根手裏剣による牽制を行うイーグルアンデッドに対し、カズマはその不完全な剣を抜いて羽根の迎撃を行う。 「今度は負けん!」 イーグルアンデッドは羽根をばら撒いた刹那、右腕を振り上げながらカズマの隙を突くようにして自ら襲い掛かった。 『Protection』 だが、今度はイーグルアンデッドが驚愕する番だった。 イーグルアンデッドの鉤爪が装甲に達する寸前、青のバリアに阻まれる。ガード魔法、プロテクションがオートで発動したのだ。 「魔法だと!?」 イーグルアンデッドのような上級アンデッドは人の姿に化けることができる。故にヒト社会に潜り込むことが可能だ。 彼が潜伏して知った驚きの事実、それが魔法だった。 たかが人間がアンデッドにしか出来ないような“超”能力を行使したことに驚きが隠せなかった。 そして目の前のライダー、何故以前は使えなかった魔法などという技を、こいつが覚えているのか。 「ふん。こんなもの、破壊すればいいだけの話しだ!」 イーグルアンデッドは頭から余計なことを振り払うかのように首を振って、右腕の鉤爪を叩き付けた。 その破壊力は、容易く強固なプロテクションを打ち砕く。 「ぐあっ!」 衝撃に吹き飛ばされるカズマ。 すかさずイーグルアンデッドはカズマを追跡する。 「――この程度なのか、ライダー」 連続して繰り出される鉤爪を剣で払うカズマだが、一本二本と装甲に傷が入っていく。 カズマは反撃に転じようとするも、悉くカウンターを食らってしまう。 「これで、終わりだ!」 イーグルアンデッドが隙を突くように渾身の回し蹴りを叩き込む。 強烈な一撃に意識を刈り取られたカズマは、そのまま地上へ落ちていった。 「カリスよ、やはり僕と戦えるのはお前だけのようだ」 どこか哀愁を漂わせる、独りの男を残して。 ・・・ 「――さん」 誰かが俺を呼んでいる。起きて反応しなければならない。 けれどとても瞼が重くて、反応出来そうにない。それに、こうしている方が心地良いから、反応したくない。このまま眠っていたい。 「……マさん」 鬱陶しい。このまま眠れば、これ以上苦しまなくてすむんだ。もうあの苦しみから解放されるんだ。 だからこれ以上、俺を起こさないで―― 「――カズマさんっ!」 「うわっ!?」 リィンの怒鳴り声が一気に俺の意識を覚醒させる。ついさっきまで考えていたことをすっかり忘れ去ってしまうほど、豪快な起床だった。 「ど、どうしたんだリィン?」 「どうしたもこうしたもないですよっ! あんな高い所から落ちてきたから心配してたんですよ!?」 そう言われて空を仰ぎ見る。 すぐ近くには、天を突く勢いの巨大なビルがそびえていた。 (そう、か。あの上から落ちたのか) そっと周りを見渡す。地面に叩きつけられたならあの血が飛び散っているはずだが、それはない。ほっと安心すると共に疑問が湧き上がる。 「なんで、無傷なんだ……?」 「リィンが受け止めたからですっ!」 泣きそうな顔で覗き込んでくるリィン。 彼女は普段の妖精みたいな外見から、ヴィータみたいな小学生ほどの体格に成長していた。魔法とその体で受け止めてくれたのかもしれない。 しかも、何故か膝枕をされているのも謎だ。 「あ、これはですね、変身魔法の一環で体を大きく出来る魔法なんですよ!」 普段の30cmの体格では嫌が上にも彼女が人間ではないことを痛感させられるが、今の姿なら人間の子どもと大差ない。 そんな子どもに膝枕されていると思うと段々恥ずかしくなってきた。 「普段は何で小っちゃいんだ?」 「む、私だってこっちの方が子ども扱いされないから良いですけど、あっちの姿の方が魔力の節約とかで便利なんですぅ~」 こっちも子どもじゃないか、とは言わなかった。女性に余計なことを言うとろくなことにはならないことを何故か理解していたから。 (……待てよ、俺は何かを忘れて――) 「――リィン! あいつは!?」 「はひゃ!? び、びっくりしました~」 「いいから! あいつはどこに?」 最初は目を真ん丸にして驚いていたリィンの顔が徐々に陰り、最後は視線を反らしていく。嫌な予感がふつふつと湧いてきた。 「……見失いました」 間違いない。あいつは人間に化けたのだ。すぐに探さなければまた被害者が出てしまう。しかし―― 「取り敢えずカズマさんも起きましたし、結界を解いたら六課でたっぷり事情を聞かせてもらいますからね」 ――どうやら、今すぐ探すことは出来なさそうだった。 ・・・ 「くくくっ」 百階以上はあると思われる高層ビルの屋上にて男は笑う。高らかに、嘲りを込めて。 その瞳が映すモノは世界か、己か。 「やはりアンデッドには魔法が通用しないようだな」 男は理知的で寡黙そうな顔に獰猛で野蛮な笑顔を浮かべ、下界を見つめ続ける。 世界は何も知らないかのように整然と動く。いや、実際何も知らないのだろう。だから例え人が墜落しようと、街は決して変わらない。 「いや、奴が勝てないのはそれだけじゃないか。記憶がないんだからな」 男は笑みを深めながら右手で弄んでいるカードを見つめる。 端にスペードの刻印とアルファベットのAが穿たれ、鮮やかで生き生きとした甲虫らしき生物が描かれたカード。 たかが紙切れ一枚に、どれほどの力が宿っているか、人々は知らないだろう。アクセサリーに強大な力を込めたもの、デバイスを作れる連中には良い皮肉だと男は考える。 「さぁ、お前にきっかけを与えてやるよ。俺は“お前”を倒す必要があるんだからな」 男はベルトに下げたホルダーの中から箱型の機器を取り出し、それを忌まわしげに握りしめる。それは中央に黄金の三角形――ゴールデントライアングル――が埋まったクリスタルを嵌めた機器。 「俺はオリジナルを殺し、本物になる。そのためにまずは剣崎、お前を倒す!」 決してこの男には似合わない笑い声を上げながら、彼は世界に向かって吠えた。 ・・・ あの上級アンデッドとの戦いから次の日、俺は帰って早々はやてから散々怒られたことを思い出していた。 『無茶してもし死んどったらどないするん!?』 「無茶しても死ねないからなぁ」 どこか自嘲気味に呟きつつ、最近フラッシュバックする光景が思い浮かぶ。雪山。近付く地面。ぐしゃりという音。周りに広がる“緑”の血。 夜な夜な俺を苛む記憶の断片。それが俺を追い詰めている。それが分かる。 人ではない。 そう、俺は化け物なのだ。それをありがたくも再確認させてくれる。お陰で睡眠時間は減る一方だ。これなら記憶が戻らない方がまだマシだったかもしれない。 一度頭をかきむしり、思考をリセットする。そう、今考えることはあの上級アンデッドのことだ。他のことは、今はいい。 (ジョーカーでいくのでは飛行能力を持つアイツに勝つのは難しい。だからといって魔法では勝ち目はない……) どんどん選択肢が無くなっていっていることに気付いた。これでは奴に勝てない。考え方を変えなければ。 そんなとき、機動六課演習場に凄まじい騒音が響き渡った。 ・・・ 「何や!?」 爆音と共に、はやての声が響きわたる。 はやてが覗き込んだ窓の向こう側から、煙が昇った演習場が見える。それを見て、はやては顔を青ざめた。 「ザフィーラ! ちょっと調べてきてくれんか?」 『了解です、主』 はやてが念話で己の守護騎士を呼ぶ。 六課に残る戦力は看護班のシャマル、指揮官のはやて、そしてフリーのカズマとザフィーラだけ。その上、はやては強力すぎる部隊にならないよう戦力規制のリミッターがかけられており、シャマルは前戦向けではなく、カズマは負傷中。戦えるのはザフィーラだけだった。 隊舎から飛び出す蒼き狼は四肢を振るって海上に浮かぶ演習場へと向かう。疾風を纏うかのような速さで滑り込んだ彼が見たものは、立体シミュレーターによって作り出されたコンクリートを出鱈目に打ち砕く怪鳥ならぬ怪人だった。 「何者だ」 低く、唸るような声でザフィーラが言葉を投げかける。彼も人ではないからか、怪人に即座に襲いかかるような真似はしなかった。 「……今度は犬畜生か。人間といい犬といい、僕とカリスを邪魔するには役不足な連中ばかりだ」 「俺は犬ではない! 狼だ!」 ザフィーラが毛を逆立たせ、低く腰を落とす。途端、彼の体が白く輝きだす。その姿が、一瞬にして獣人のそれに変わった。 鍛え上げられた筋肉、がっしりとした逞しい体、そして白い髪とそこから生える犬耳。 寡黙な顔をしかめさせながら、ザフィーラはファイティングポーズを構える。 「ほう、人間のしもべに成り下がった犬畜生がアンデッドに刃向かうとはな」 「盾の守護獣、ザフィーラだ! 俺を侮辱し、主の御元を傷付けるお前を許さん!」 ザフィーラは足元に三角形の魔法陣を展開し、それを蹴飛ばすような勢いで怪人――イーグルアンデッドに挑みかかった。 「犬ごときが、この空に上がるな!」 それに対しイーグルアンデッドは雄々しい剛翼を広げ、鋭利な羽根を雨のように降らせる。そのナイフの豪雨をザフィーラは両腕に展開した三角形の魔法陣で巧みにはじいていく。 「その程度、俺には効かん!」 そういうザフィーラに対し、イーグルアンデットは右手を振り上げて答えた。 「この程度で消えてくれた方が良かったんだがな」 イーグルアンデッドの傍にまで接近したザフィーラにその鉤爪を振り下ろす。ザフィーラは二つの盾をもって防ぐが、イーグルアンデッドは強引に爪をねじ込み、怪力をもって盾を打ち砕いた。 「ぐぉ!?」 「犬がアンデッドに楯突くんじゃない!」 さらに連撃として左ストレートを打ち込まれ、吹っ飛びザフィーラ。 だが筋肉の鎧で包まれた守護獣は、この程度で怯みはしない。 「まだまだ、いくぞ! 『鋼の軛』!」 ザフィーラが両腕を構えると同時に大空を舞うイーグルアンデッドを囲むようにいくつもの魔法陣が浮かび上がる。 それらがイーグルアンデッドに向いた瞬間、魔法陣から白き拘束条が勢いよく伸びる。 「それがどうした」 それらをイーグルアンデッドも避けるが、二本が翼を貫通する。すぐに引き抜こうとするが、拘束条が膨らんでいき、抜けなくなる。 それはまさに、空に射止められた鷲。 「なんだ、これは!?」 「俺の『鋼の軛』はあらゆるものを貫いて捕獲する拘束魔法。お前も、これで終わりだ」 羽ばたくこともできず空中に停止させられた状態のイーグルアンデッドは最初こそ暴れていたが、すぐに大人しくなった。 「主、終わりました」 それを降服と受け取ったザフィーラは念話で主を呼ぶが―― 「ふん、これで終わるかと思ったか?」 「――何?」 彼は右腕を掲げる。嵌められた黒光りする鉤爪が閃く。それは決して降参のそれではなく、むしろ必勝を思わせるもの。 イーグルアンデッドは、その鉤爪で自らの翼を斬り落とした。 「ぐっ!」 「なん、だと!?」 そしてその刹那、千切れた断面から新たな翼を生やした。 「ぐおっ……!」 「翼を、強引に再生だと!? なんという生命力だ!」 そしてイーグルアンデッドは隙を見せたザフィーラの懐中に一瞬で入り込み、鉤爪を嵌めた右手による右ストレートを腹に叩き込んだ。 「ぐおあぁぁっ!」 血を噴き出しながら墜落するザフィーラ。それを受け止めたのは、はやてだった。 「ある、じ……?」 「喋ったらあかん。シャマル、すぐに治療を」 「はい」 あの念話から急ぎ赴いていたはやてとシャマルは、用意していた回復魔法によってザフィーラの治療を開始する。 だがそこに、イーグルアンデッドが舞い降りた。 「人間の、しかも女か」 右手を構えながら近付くイーグルアンデッドに立ちはだかるはやて。その彼女に対し、侮蔑の響きを込めた言葉を投げ掛ける。 だがはやてはその程度に屈するほど弱い女ではない。 「これ以上、好き勝手はさせん」 はやては自らの十字架を模した杖型デバイス、シュベルトクロイツを構え、イーグルアンデッドは己の誇る鉤爪を構える。 一触即発の空気。 そこに割って入る影。それは、カズマだった。 「お前の相手は俺だ!」 「ライダー、貴様は負けたのだ。下がれ」 それを無視し、剣を引き抜くカズマ。腰を下げ、垂直に立てた剣に左手を添える独特な構えを取る。 「カズマ君は怪我しとるんよ!? 下がって!」 はやては自らの前に躍り出たカズマを引き下がらせるべく腕を伸ばす。 だがそのとき、周囲を白い煙幕が包み込んだ。 「何や!?」 はやての叫びすらも包み込むように広がる煙幕は演習場を瞬く間に包み込んでいく。はやてとシャマル、ザフィーラは一か所に固まっていたが、イーグルアンデッドとカズマはそれぞれバラバラに動き出し、まもなく散り散りになっていく。 「くそっ、あいつはどこだ!」 煙幕の中を彷徨い歩きながら、イーグルアンデッドを探すカズマ。 そんな彼の元に一枚のカードが滑り込む。 「受け取れ」 「なんだ!?」 カズマの右手にいつの間にか握られたカード。そして男の声。 どこから響くかも分からないそれが、カズマの記憶を激しく刺激する。 「今の声……、それにこのカードは」 カズマは手元のカードを握りこみ、変身を解く。 「裏だ」 聞き覚えのある声。そう、かつて自らを鍛え、導いた先輩である、戦友でもある男の声。 カズマは、本人も気付かない内に行動を開始していた。 「そうだ――俺は」 チェンジデバイスの裏、カードを挿入するラウズリーダーが顔を覗かせる。それを見てカズマは右手のカードを差し込んでいく。 そしてそれを腹部に持って行った刹那、チェンジデバイス側面からトランプのカードに似たものが幾枚も飛び出し、カズマの腰にベルトに変化しながら巻きついていく。 そう、その姿は―― 「――そうだ、俺は『仮面ライダー』だ!」 『Turn up』 カズマがレバーを引いた直後にチェンジデバイス中央のクリスタル、その中のゴールデントライアングルが回転し、そこから青いエネルギーゲート、オリハルコンエレメントが射出される。 「うぉぉぉあぁぁぁ!」 それを潜ってカズマは、「仮面ライダー」へと変身した。 ・・・ 遂に「仮面ライダー」に変身したカズマ。再誕した彼とイーグルアンデッドとの第2ラウンドが始まる。 一方、それを眺める三人の男達は、それぞれが行動を開始する。その目的とは―――― 次回「ライダー」 Revive Brave Heart 目次へ 次へ
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書き手リスト 投下SS数 名前(敬称略) 代表的な登場キャラ 備考 44 ◆Vj6e1anjAc セフィロス、スバル・ナカジマ、ルルーシュ・ランペルージ、ディエチ 元◆9L.gxDzakI氏、元本スレ書き手、反目のスバル氏 38 ◆7pf62HiyTE スバル・ナカジマ、八神はやて(StS)、泉こなた、柊かがみ 38 ◆HlLdWe.oBM 高町なのは(StS)、柊かがみ、キース・レッド、ブレンヒルト・シルト 元◆RsQVcxRr96氏 21 ◆gFOqjEuBs6 相川始、柊かがみ、金居、キング、天道総司、ヒビノ・ミライ 本スレ書き手、マスカレード氏 19 ◆Qpd0JbP8YI セフィロス、八神はやて(A s)、ユーノ・スクライア、L 10 ◆jiPkKgmerY ミリオンズ・ナイブズ、アレクサンド・アンデルセン、ヴァッシュ・ザ・スタンピード、殺生丸 本スレ書き手、リリカルTRIGUN氏 6 ◆WslPJpzlnU 新庄・運切、エネル、ヴィータ、アーカード 本スレ書き手、なのは×終わクロ氏 5 ◆WwbWwZAI1c 柊つかさ、金居 元◆wsuikZ7zFc氏 5 ◆LuuKRM2PEg 天道総司、アンジール・ヒューレー、キング 本スレ書き手、地獄の四兄弟氏 3 ◆UOleKa/vQo 本スレ書き手、リリカル遊戯王GX氏 3 ◆vXe1ViVgVI 2 ◆WMc1TGFkQk 2 ◆yZGDumU3WM 元本スレ書き手、ゲッターロボ昴氏 2 ◆Qz0BXaGMDg 1 ◆ga/ayzh9y. 本スレ書き手、ウルトラマンメビウス×魔法少女リリカルなのは氏 1 ◆C1.qFoQXNw 1 ◆19OIuwPQTE 高町なのは(StS)、ヴィヴィオ
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「アルフさん、やっぱりうちらで何とか…」 「いや、大丈夫だよ!片腕が動けばバリアブレイクは使える!」 ビーの矢の麻痺毒で左腕を封じられ、それでも戦おうとするアルフ。腕に刺さった矢を抜き、バリアブレイクを構えた。 それを見たなのは達も、アルフの意思を無駄にできないと言わんばかりに、攻撃魔法やファイナルベントを構える。 大技に気付いたバズスティンガーは再び集まり、バリアを張った。 「はぁぁぁぁっ!!」 待ってましたと言わんばかりにアルフが突っ込み、バリアブレイクでバリアを破って離脱する。 そしてそれを好機と見て、三人分の大技が飛んだ。 「ディバイィィィーーーーーン…バスタァァーーーー!」 「フォトンランサー・ジェノサイドシフト!解き放て!」 『FINALVENT』 それぞれの大技がバズスティンガーに直撃し、そして消し飛ばした。 一週間後、OREジャーナル。現在冷房の修理中。 長時間フル稼働にしていたせいかエアコンが壊れ、真司が修理しているところのようだ。島田が押さえているとはいえ、今にも崩れそうなバランスの悪さだ。 …ちなみに現在は6月の終わり頃である。 「任せとけって言ったじゃない…」 「任しといてくださいよ」 島田の悪態に、真司が言い返す。 「真司~…まだか~…?」 涼みに来ていたヴィータが聞く。が、修理ついでにフィルター掃除もしているので、時間がかかる。 ちなみにヴィータはあまりの暑さにすでにグロッキーだ。 「フィルター掃除もやってるし、こりゃもう少しかかるな… っていうかヴィータ、ここは涼む場所じゃないんだぞ?」 「えー、別にいいじゃねーか」「そうそう、硬い事言わずに涼ませてあげれば?」 ヴィータと島田の同時攻撃。真司は反論できない…というか、社会人ならこれくらい反論してみせろ。 と、ここで大久保が「暑ちい…」と言いながら入ってくる。 「あ、おはようございます」 島田が大久保に近寄りながら挨拶する。 そのせいでバランスが崩れ、真司が転倒。島田の肩を踏み台に空中で一回転。そして大久保の机に着地。 見事な宙返りだ。大会とかなら10点は堅い。 …ここでフィルター掃除のホコリを入れていたバケツが落下。落下点にはヴィータが。 ヘディングでバケツを弾き飛ばした。軌道上には真司の後頭部。当然のごとく直撃。そしてK.O. 「おい令子、ちょっとこっち来てくれ…そりゃ!」 頭から崩れ落ちる真司を無視し、令子に写真を見せる。暑苦しい男の写真だ。 「やだもう編集長、この暑いのにそんな暑苦しいもの見せないでくださいよ…」 令子はあからさまに嫌悪感を見せる。言葉にも出しているが、暑いときに暑苦しいものを見せられて参っているようだ。 「…今、一瞬見たよな?この暑苦しいの一瞬見たよな?」 「え?ええ…」「よし終了。忘れろ」 大久保はそう言うと、さっさと写真をしまった。 「そ、それ見合い写真d「シャラップ!忘れろ」 駆け寄ってくる島田を黙らせ、写真についての説明をする。 「知り合いにどーしてもって頼まれてな、見せるだけ見せるって約束しちまったんだよ。 だがまあ、これで約束は果たした。忘れろ。記憶から消せ。忘却しろ」 「わ、私やりたい!私やる!」「はぁ!?」 島田がそう言って写真をひったくろうとするが、大久保が止め、諭す。 「お前な、見合いの意味分かってんのか?にらめっこじゃねえんだぞ?な?」 「でも試しに一度くらい…ブツブツ」 最後の方はブツブツとしか聞こえないくらい小さい声だった。 「やってみようかな、私…」「はぁ!?」 今回の大久保は驚き役のようだ。さっきから驚いた声を上げている。 「ほら、何事も経験だって編集長いつも言ってるじゃないですか。 見合いの経験がいつジャーナリストの仕事に役立つかもしれないですし」 「いや、そりゃそうだけどな…」 大久保たちを尻目に、ヴィータが真司の頭に氷袋を当てている。 「お前らのびてる真司は無視かよ」 第二十話『現れる戦神』前編 とまあ、そんなこんなで見合い当日。見合い相手の倉井忍は黙々と料理を食べている。 …何も話さないこの空気に耐え切れず、令子が口を開く。 「あの…ご趣味は?」 「そんなこと聞いてどうするんです」 倉井がぴしゃりと言葉を止めさせる。 「貴方のような女性が、僕なんかに興味を持つはずが無い」 「そんな事は…」 「では私と付き合いたいと?私と結婚したいとでも言うんですか?」 倉井がまくし立て、令子に詰め寄る。 「貴方は遊び半分に見合いをして、相手の気持ちを考えていない! 傷つく男だっているんです…!」 「…ごめんなさい」 その後、倉井は泣きそうな目で、じっと睨みつけるかのように令子を見ていた。 その日の夕方、令子はカレーパンを食べながら帰宅していた。 「いい男、いないかな…」 ふと、背後からの気配に気付き、振り返る。だが、誰もいない。 気のせいかと思い、再び家へと歩を進める。だが、その後もその気配は存在していた。 「ストーカー?」 「うん、多分。なんか感じるの。こう、なんか変な…」 見合いからさらに数日後、OREジャーナル。仕事の休憩時間にみんなでアイスを食べている。 何故かはやてとヴィータも一緒だ。っていうかあんたら何やってんだ。 …ちなみに冷房は先日の一件で結局直らず、修理業者に修理を頼んでいる。代用品は扇風機だ。 「それってもしかして、こないだの見合い相手じゃねーか?ふられた腹いせってことでさ」 「思いつきでそういう事言うんじゃないわ。私の勘違いかもしれないし…」 「いや、その人が怪しいって思うのは私も同じや。令子さん隠れファンも多そうやし…」 思い思いにストーカーの正体を考える一同。 「あたしもー、前に何度かストーカーに遭ったことがあってー」 対抗心を出したのか、島田が似たようなことを言い出すが… 「勘違いです」「勘違いやな」「勘違いだな」 一斉にバッサリ。島田は気を悪くしたのか、真司たちを睨む。 「とにかく、尊敬する令子さんの為だ。俺が令子さんを守ります。必ず、いやいや絶対」 この直後、何故か全員同時に冷たいものを食べたとき特有の頭痛が来た。何というナイスタイミング。 その晩もまた、令子は何者かにつけられていた。 あくびをしながら帰る令子に迫る影。だが、その影は――― 「捕まえた!」 ―――横から現れた真司に組み付かれた。 そのまま押し合い、へし合い、取っ組み合い。 「このヤロ、逮捕だ逮捕だ!令子さんつけ回しやがって!あ゛ッ!!」 喧嘩の最中、真司は電柱に頭を強打。そのまま意識を手放した。 最後に見たのは、花束を持った吾郎だった―――――― 数時間後、北岡弁護士事務所。 「ギャーーーーーー!!」 悲鳴とともに真司が目を覚ます。北岡と吾郎もその声に驚いたようだ。 「なっ、何寝ぼけてんだよ!」「え、あ…あれ?」 ようやく真司の目も覚めたようだ。 「おい、それよりどういうつもりよ? 吾郎ちゃんにいきなり襲い掛かったそうじゃない。何考えてんだよ」 その言葉で、気を失う前のことを思い出す。 そうだ、令子を守るために道中でストーカーを待ち伏せていたのだ。 そして吾郎が迫ってきた。ということは吾郎がストーカーだ。それが真司の結論だ。 「それはこっちのセリフだよ!このストーカー野郎!」 「は?」 真司のあまりの言い草に、北岡も吾郎もあっけにとられている。 「ストーカーだよストーカー! こいつはな、ここ最近ずっと令子さんのことつけ回してたんだよ!ったく、危ねえ真似しやがって」 刹那、大爆笑が巻き起こる。 「吾郎ちゃんはストーカーじゃない。俺に頼まれて花束を渡しに行ってただけだ」 「え?ってことは…!!」 「桃井令子か?さっき会った。少し様子が変だったから後を追ってみたんだが…」 「それじゃ遅いんだよ!何で送ってあげなかったんだ!」 先ほどのやり取りの後、令子のマンションへと向かった真司、北岡、吾郎の三人。だがそこには令子の姿は無く、代わりに道に令子の鞄が落ちていた。 誰かの所に行ったのかと思い、知り合いに連絡を取った。それにより蓮が令子に会ったということが分かる。 そして令子のマンション前で現在喧嘩中である。理由は少し前の会話文の通りだ。 と、そこで北岡が喧嘩を止める。 「オイオイオイオイ、よせって。いがみ合ってる場合か」 時が止まる。3秒ほど。 「…何よ?」 「いや、まさかお前が喧嘩を止めるとはな」 そういえば。北岡はそういう事をしないタイプの人間なのに。 思いがけない行動に、真司も少し感動しているようだ。 「こんな事で感動してる場合か。それより城戸、お前ストーカーがどうとか言ってたが、心当たり無いのか?」 「そうだ…ストーカーだよ!」 「令子さんが…見合い…」 「ああ…もちろん冗談半分だったけどさ、多分その男がふられた腹いせに令子さんを…」 帰路につきながら、真司が蓮と北岡に事情を説明していた。 令子が見合いに参加したこと、その見合いが御破算になったこと、そしてその日以来令子がストーカーにつけ回されていることを。 …と、ここで真司があることを思い出す。 (わ、私やりたい!私やる!) そう、見合いの数日前、島田がその話に食いついたことだ。 真司はそれを利用し、一計を案じた。 「そうだ…もう一回見合いを仕組めば!」 「罠を張るっていうことか」「そうだよ!」 「なるほどな、見合い相手が犯人なら、有効な手かもしれないな。 お前よくそんなの思いついたな…」 「お前ら…今まで俺のことバカだと思ってたろ?」「違うのか?」 どうやらこの二人の中では、『真司=バカ』でイメージが定着しているようだ。 「と、とにかく…令子さんを救出するまで、とりあえずライダーの戦いは中止ってことで、な?」 「…ま、しょうがないな。でも勘違いするなよ?別に友達になる訳じゃないからな?」 「当たり前だ」 とりあえず蓮も北岡も真司の案を飲んだようだ。 とにかく、これでちょっとした同盟が出来上がった。と、その時。 「話は聞かせてもらったわ」 聞き覚えのある、何者かの声。振り向くとそこにシャマルがいた。 「シャ、シャマルさん、何でこんなとこに…」 「暑いからアイスでも食べようってことになって、それで買いに行く人を決めるのにジャンケンをしたんだけど…」 「なるほどな。お前が負けて、今買って帰る途中ということか」 「ええ、そういう事よ」 確かにシャマルの手元にはコンビニ袋。煙が出ているところを見ると、ドライアイスも入れてもらったのだろう。 「それはともかく、令子さんがストーカーにさらわれたっていうのは本当?」 「あ、ああ。本当だけど」 「…なら私も手伝うわ。メンバーは多い方がいいでしょう?」 この後シャマルや蓮が帰宅後、高町家・八神家の面々に話し、その結果みんなで事に当たるという予想以上の大事になった。 そして見合い当日。ちなみに仕掛け人は島田だ。 「あなたにはシンパシーを感じます…本気ですね?この見合い」 島田はそれを無視するかのように酒を飲む。 その頃外では… キィィィン… 例の金属音が鳴り響く。発信源は北岡の車だ。 塀によじ登って見ている真司はその音に気付くが、すぐに消えたことから気のせいと断じてしまう。 「様子はどうなの?」 なのはが真司に近寄り、中の様子を聞いている。 ちなみに今日は土曜日なので学校は休みだ。ゆとり万歳。 「え?ああ。見るからに怪しい男だね。絶対あいつが犯人だな」 と、そこまで言ったところで中から人が出てくる。 それに気付き、塀から手を離す真司。怪しまれないようやりすごす。 その頃中では。 「ったく、何が見合いだよ。編集長も編集長でさあ…」 もはや見合いなどではなく、ただの酔っ払いの飲み会だ。 その夜、帰り道にて。 「見合いが何だってんだよ…ああ、暑ちぃ…」 グチをこぼし、缶ビールを飲みながら帰路に着く島田。それを影から見る3つの影。 (こちらA班、異常無し) (B班了解。こちらも異常無し) (C班了解、同じく異常無し…主はやて、この口調は何とかならないのですか?) (別にええやろ。気分の問題や。気分の) (気分の…ですか) (シグナムさん、あんまり気にすると肩凝りますよ?) このどこぞの諜報部隊のような会話、これは先日の一件の際にメンバーが一気に増えたため、チームに分けての行動となった結果である。 各班の編成は通信役の魔導師一名以上を含む4名の編成で、今も各所から見張っている。ちなみにメンバーはこうだ。 A班:秋山蓮、高町なのは、神崎優衣、ヴィータ B班:城戸真司、八神はやて、リィンフォースⅡ、手塚海之 C班:北岡秀一、シグナム、由良吾郎、シャマル という編成である。ちなみにザフィーラは留守番だ。なお、なのはは親の許可をもらっているので多分問題は無い。 (でも意外よね。まさか北岡さんが令子さんのこと…) (え?シャマル、それほんまなん?) (…確かにな。まあ、そうでもなければ北岡が協力するとも思えんが) (*1)) この一件で北岡の想い人が発覚したようだ。 ちなみになのは・ヴィータ・リィンのお子様トリオは話の内容を理解できていないらしく、疑問符を5つほど浮かべている。放って置けばまだ増えるだろう。 「なのはちゃん…なのはちゃん!」 「ふぇ?な、何ですか優衣さん…」 優衣によって現実へと引っ張り戻されるなのは。どうやら聞き入っていたらしい。その証拠に、さっきからの優衣の声にも気付いていなかった。 「島田さんがいないの…多分、島田さんもさらわれたんだと思う…とにかく他の班のみんなに連絡して!」 「はっ、はい!」(こちらA班、異常発生!) 戻る 目次へ 次へ
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12月2日、時空管理局本局にて。 「いや、君のケガも軽くてよかった」 本局の医務室から黒髪の少年『クロノ・ハラオウン』が出てくる。 遅れて出てきたのはフェイト。シグナムやマジンカイザーとの戦闘のせいか、左腕に包帯を巻いている。 心配をかけてしまった。そう言いたげな表情をするフェイト。そして申し訳なさそうに謝罪した。 「クロノ……ごめんね、心配かけて」 その言葉にクロノは一瞬きょとんとし、そして笑って答えた。 「君となのはでもう慣れた。気にするな」 それから少し経った頃の別の医務室では、なのはが医者から検診を受けていた。 管理局の医療用装置がなのはに光を当て、その光の動きに合わせて表示されたグラフが変動する。 なのはの現状がどんなものかの結論を出したのか、しばらくそれを見ていた医者が装置を止め、笑顔で状態を教えた。 「さすが若いね、もうリンカーコアの再生が始まっている。 ただ、少しの間魔法がほとんど使えないから、気をつけるんだよ」 「あ、はい。ありがとうございます」 とりあえず、特に深刻な問題と言えるようなものは無いようだ。あるとしても、魔力を奪われたことでリンカーコアが縮小し、それが原因で少しの間魔法が使えないことくらいか。 そしてその縮小自体もマジンカイザーの妨害があり、大した量は奪われていない。これならば回復もすぐだろう。 ……と、ドアの方から開閉音。その方向を見ると、フェイトとクロノが来ていた。目的はなのはの見舞いである。 「ああ、ハラオウン執務官。ちょっとよろしいでしょうか?」 「はい、何でしょう?」 医者がクロノに用があるを言い、クロノはそれに答える。 すると医者はクロノを外へと連れ出した。せっかくの友達同士の再会を邪魔しては悪いと思ったのだろう。空気が読めていて何よりである。 そして医者が告げた内容……それは大いにクロノの興味を引くこととなった。 「実は、例の時空遭難者が先ほど目を覚ましました。今はハラオウン提督が話を聞いているようです」 第三話『魔神と魔法』 時間は少しだけ遡る。 なのはやフェイトがいた所とはさらに別の医務室。甲児はそこで目を覚ました。 困惑の表情をし、あたりを見回す。どうやら状況が理解できていないようだ。 「ここはどこだ?俺は確かカイザーであしゅらを倒して、それからDr.ヘルの所に乗り込んだはずだってのに……」 頭に疑問符を浮かべ、記憶を掘り返す甲児。だが、どんなに思い出そうとしてもDr.ヘルが脱出し、自身も地獄島の爆発の中マジンカイザーに乗った所までしか思い出せない。 もっとも、そこから先は気絶していたのだから覚えていないのも無理は無いが。 そして今の訳が分からない状況は、甲児にある突拍子も無い結論を叩き出させた。 「まさかあの爆発で異世界にでも飛んじまったとか……そんなわけねえか」 「いいえ、残念ながらそのまさかよ」 最も可能性の低いであろう結論を肯定され、驚いてその声の方向へと振り向く甲児。 その方向にいたのは、クロノの母であり時空管理局提督でもある女性『リンディ・ハラオウン』である。 ちなみに外見年齢は甲児と大して変わらないため、甲児は同年代かそれより少し上くらいだと勘違いしているようだがそれはまた別の話。 「……あんたは誰だ? それにここは一体……」 眼前に現れた人物へと質問する甲児。それに対してリンディも答える。 「私は時空管理局提督のリンディ・ハラオウンです。そしてここは、時空管理局本局の医務室。 あなたは次元震に巻き込まれて、なのはさん達のいた世界に飛ばされたのよ」 そう言うと、緑茶の乗った盆を近くの台に置き、甲児へと湯のみを差し出す。 甲児はそれを受け取ると、リンディ好みの味付け(砂糖とミルクがたっぷり)になっているとも気付かず一口飲み―――― (´゜ω゜) ;*. ;ブッ 「それで、兜甲児さん……でいいのかしら? あなたがこの世界に来るきっかけに、何か心当たりは無いかしら?」 気を取り直してリンディが甲児へと事情を聞く。当の甲児は先ほどのお茶を吹き出したせいで申し訳なさそうな顔で聞いている。 ……ん?待てよ?確か甲児はまだ名乗ってはいないはず。それなのに何故リンディがその名を知っているのだろうか? そう言いたそうな表情の甲児を見て、リンディが察してその答えを言った。 「あなたの事は鉄也さんから聞きました。名前と、あなた達が次元遭難者であるという事くらいですが」 「鉄也さんだって!? まさか、鉄也さんまでこっちに来てるのか!?」 食いついた。甲児と鉄也はやはり元の世界での知り合いだったらしい。 これを聞いた甲児はリンディへと詰め寄り、そしてリンディも答える。 「え、ええ。でも鉄也さんはあなたの暴走を止めた後、どこかに行ってしまったわ」 事実だ。フェイトがアースラへと連絡を入れた頃には、鉄也はもう近くにはいなかった。 どこに行ったのかも分からなかったので、捜索はしている……が、まだ見つかっていない。 とにかく、これでリンディが甲児を知っている理由はこれで判明した。甲児にとっても納得のいく理由である。 甲児はその心当たりである出来事……地獄島での死闘の事を話した。 もちろん次元震や時空管理局など、訳の分からない事もあるのだが…… ちなみに「暴走」のくだりには心当たりがあるためあえて言及しなかったらしい。「カイザーもこっちに来ている可能性」には気付いていないにもかかわらず。 「――――それで、Dr.ヘルを追うのを諦めてカイザーに乗ったんだ。そこから先は俺も覚えてねえ」 甲児が全てを話し終え、その内容をリンディが理解する。 島が一つ吹き飛ぶほどの爆発だ。それならば次元震に気付かなくても無理は無い。 いや、多少苦しいが、その爆発で次元震が起こったのだろうか?真相は闇の中である。 いずれにせよ、甲児はその爆発の時に次元震に巻き込まれ、そして異世界へと飛ばされた。これが事実である。 そして甲児はとある可能性に気付き、リンディへと聞いた。 「……そうだ! 俺がこの世界に来てるってことは、もしかしたらカイザーも……! リンディさん、俺がこっちに飛ばされたときに、近くにでかいロボットは無かったか?」 「ロボット? あなたが話していたマジンカイザーの事かしら? 残念だけど、ロボットは無かったわ。でも……」 リンディが制服のポケットに手を入れ、そしてあるものを取り出して甲児へと手渡した。 それに対して甲児の表情に変化があった。驚愕という形の変化が。 「代わりにこれがあったわ。何か心当たりは無いかしら?」 「こいつは……カイザーパイルダーじゃないか!?」 そう、リンディが取り出したのはマジンカイザーのコクピットにもなる戦闘機『カイザーパイルダー』だ。 但し、現在はアクセサリー程度に小さく、さらにはキーチェーンまで付いている。 これはカイザーパイルダーを模したキーチェーンだ。そう言われても納得できそうなものだが…… 「そう……やっぱり見覚えがあったのね」 どうやらその線は消えたようだ。だとしたら何故ここまで小さくなったのだろうか? それを考えていると、リンディの口から甲児にとってあまりにも非現実的すぎる言葉が飛び出した。 「落ち着いて聞いて。この世界には魔法が存在していて、もしかしたらマジンカイザーは魔法を使うための道具に、デバイスになったのかもしれないわ」 ……はい? 何を言っているのか分からない。いきなり異世界に飛んだだけで頭がこんがらがっているというのに、その上に魔法がどうとか言う非現実的な事が。挙句の果てにはカイザーが魔法の道具へと変化、である。 さすがに理解できなかったのか、甲児が慌てて言い返す。 「ちょっ、ちょっと待ってくれよリンディさん! 違う世界だってんなら魔法があるのも分かるけど、カイザーがそのための道具になるなんて……冗談だろ?」 「私もできればそう思いたいわ。これまで前例も無い事だし……でも、あなたがデバイスを使ってフェイトさんと戦ったのは事実よ。 鉄也さんからは「マジンカイザーには暴走機能が付いている」って聞かされているし、この世界に来たときにマジンカイザーがデバイスになって、その後に暴走したと考えれば不思議じゃないわ」 もっともこれは、マジンカイザーがロボットだった時の事情であり、デバイスとなった今それが残っていない可能性もある。 ……いや、恐らく暴走は残っている。そうでなければ甲児が知らない人物に攻撃を仕掛けるなどという行動に出る理由が無い。 「それで、甲児さん。あなたにお願いしたいことがあるんだけど……」 「お願い? もしかして、この世界で何かあったのか?」 「ええ……魔導師や魔法生物が襲撃されて、魔力を奪われる事件が多発しているの。その解決に協力してくれないかしら? あなたならマジンカイザーで犯人に対抗できるでしょうし……もちろん、嫌なら断ってくれてもかまわないわ。 もし断ったとしても、元の世界が見つかるまでの間の生活は保障するわ」 この話に、甲児は乗ろうと考えた。何の関係も無い人を襲うのを見過ごせるほど、甲児は卑怯な男ではない。 だが、その一方でとある考えが浮かぶ。暴走の話が本当なら、もしまた暴走してしまったら仲間を傷つけることになる。それだけは避けたい。 ならばどうするか……少し考え、そして決まった。 「分かった、協力する。だけど、もしまた暴走しちまったら……」 「ええ、その時は私達が絶対に止めるわ。だから安心して」 同時刻、八神家にて。 「シグナムは、お風呂どうします?」 「私は今夜はいい。明日の朝にする」 「お風呂好きが珍しいじゃん」 「たまには、そういう日もあるさ」 シャマルがヴィータを連れ、自身の主である少女『八神はやて』を連れて浴室へと向かう。 シグナムとの問答で多少珍しいと感じたようだが、それも一瞬。そのまま浴室へと入って行った。 残されたザフィーラはというと……同じく残ったシグナムへと、その真意を問うた。 「今日の戦闘か」 「聡いな、その通りだ」 今日の戦闘……すなわち、甲児がこの世界に来る前のフェイトとの戦闘である。 シグナムはその戦闘を思い返しながら、自らの服をたくし上げた。 そこから見えたシグナムの腹部には、生々しい痣が。これが意味することはただ一つ。 「お前の鎧を打ち抜くとは……」 そう、バリアジャケットの防御の上からダメージを与えた。そういう事である。 その時のことを思い返すシグナムの顔は、どこか嬉しそうだった。 久しく見なかった強敵と会えて嬉しい、といった感じの笑顔。まるで戦闘狂(バトルマニア)である。 「澄んだ太刀筋だった。良い師に学んだのだろうな。武器の差が無ければ、少々苦戦したかもしれん」 「それでもシグナムさんなら負けない。そうだろう?」 シグナムとザフィーラの会話に、突然割り込んできた三人目の声。 その方向を見ると、彼女達より少し前にこの家の一員となった青年の姿が。 そしてシグナムは彼……『デューク・フリード』の方を向き、答えた。 「……そうだな」 前へ 目次へ 次へ
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魔道戦屍リリカル・グレイヴ 第十四,五話 幕間 「音界の覇者と金の閃光」 小さな頃から“音”がただ好きだった……それだけだ。 だというのに、いつの間にか殺しの技を身に付けて夜の世界に生きていた。 人を楽しませる筈の音色は目標の脳髄を揺さぶり死に至らしめる魔音と成り果て、賞賛の拍手の代わりに阿鼻叫喚と鮮血が返ってくるようになった。 挙句の果てにはとんでもない化け物に目を付けられ、殺しの手札にされてしまう始末。 ナイブズそしてレガート、今思い出してもゾッとする。 だが不幸は一度じゃ終わらない。 一度死に、やっと馬鹿げた死のゲームから解放されたかと思えば、今度は無理矢理生き返らせられて魔法世界の住人にクーデターの道具として使われる。 イカレ野郎に足元をすくわれるのはご免だというのに…… まったくどうして俺はこうも運がない? 幸運の女神はよほど俺が嫌いらしい。 『いぎぃっ! ああぁぁぁぁあああぁっ!! っつあぁぁあああっ!!!』 そのうえコレだ。 俺の良すぎる耳は聞きたくもない女の絶叫を嫌でも拾い上げて脳髄に情報を送る。 まったく、いつまでああしているんだ? さらって早々、レジアスはあのメガネをかけていた戦闘機人にもう数時間も拷問を続けていた。 どんなに澄んだ良い声も単調な絶叫だけを発していては不快でしかない、正直頭が痛くなる。 俺が金切り声に頭痛を感じていると、俺と同じくこの世界に来たGUNG-HOのロクデナシが現れた。 「お前か……そういえば聞いたか? チャペルが連絡を絶ったそうだ、おそらく潰えたのだろう。E・G・マインに続き奴もいなくなった、これで残るGUNG-HOは俺とお前だけだな」 俺はふとチャペルの事を話題に出した。だがこいつは何も言わず沈黙を守ったまま。 特に興味は無し……か殺人(キリング)マニアめ。恐らく自分の行う殺しにしか興味がないのだろう。 まったくとんだご同輩だ、俺は一つ溜息を吐いてその場を後にした。今はただ、静かな場所で酒でも飲みたい気分だった。 ウイスキーの瓶とグラスを持って立ち去る。 そろそろ本気で“あの話”に乗る算段をした方が良いらしい、俺はふとそんな事を考えた。 “ここ”は随分と広い、とても大昔に作られた戦艦とは思えないものだ。 その広大な内部構造の内、俺はできるだけ静かな方へ、心地良い音がある方へと足を進める。 そうして歩いて辿り着いたのは、捉えた捕虜を拘置する為の区画だった。 閉ざされたドアの向こうには、あるいは数人に、あるいは一人に部屋が割り当てられている。 最低限の食事はオーグマンやあの中将の部下が与えていた。 ここには大して見張りなどいない、何故ならいても意味が無いからだ。 魔法を阻害するらしい装置AMF、それが展開されている上に魔法を使うための道具であるデバイスとやらも現地で没収済み。 捕虜には抵抗したくても抵抗する術などありはしなかった。 捕虜になった連中の事を思い出しながらそこを眺めて歩いていると、ふと一つのドアの前で足が止まる。 金属製のドアの向こうから、ひどく耳に響く心地良い音色が俺の心を捉えた。 それは声だ、耳から伝わり脳を甘く焦がすような喘ぎ声。 確かここのドアロックには俺に与えられたカードキーの権限でも解除が可能なはずだ。俺は僅かな逡巡の後にドアロックにキーをかざした。 無論、心地良い音に対する興味も大きかったが、それ以上に“あの話”を実行に移す際の下見も兼ねていた。 ドアがスライドして開けば、中には簡易ベッドの上で身をよじる女が一人。確かティーダとかいう奴が捕らえた女だ。 恐らく酷い衝撃で気を失い、今まで眠っていたのだろう。 長く艶やかな金髪、黒い制服に覆われた起伏に富んだ男心をくすぐる肢体、そして麗しいと言うべき美貌。これは美女と言う他ないだろう。 まあ、俺から言わせればまだ少し子供臭さが抜けないが。 「んぅぅ……あれ? ここは……」 少し艶めいた声で喘ぎながら女は目を覚ました。 目覚めたばかりで思考が覚醒しきらないのか、しきりに目をこすって辺りを見回す。 俺は近くにあった椅子に手を伸ばし、座りながら声をかけた。 「ようやくお目覚めか? 眠り姫」 俺の声に反応して女は即座に振り返り鋭い視線を浴びせかけた。良い反応だ、単に艶めかしい美女という訳ではないらしい。 俺はそれよりもその瞳の美しさに少し驚いた、こんな綺麗な紅色の眼は初めて見る。 濃い警戒を込めた瞳で俺を見つめながら周囲を見渡した女は、自分の置かれた状況を理解したらしく目から僅かに覇気をなくした。 「そうか、私は倒されて……捕まったんですね……」 「ああ、らしいな」 「あなた方は何者ですか? あの時地上本部を襲撃したのはあなた達なんですか?」 起きたばかりだというのに女はよく喋った。だが正直言葉の内容よりもその澄んだ声質の方が俺の心を揺さぶる。 やはり俺は根っからの音好きらしい。しかし言葉の内容もしっかりと理解したので軽く返事をしてやった。 「さてな、俺も首魁はレジアスとかいう軍人である事しか知らない」 「レジアス中将が!? まさか……そんな事が……」 俺の言葉に女は面白いくらい動揺した、あのイカレた中将とやらはここでは随分有名人らしい。 だが俺はそれよりもさっきから気になっていた事を教えてやる。 「ああ、それよりも」 「はい」 「スカート、めくれてるぞ?」 「へ?」 女のスカートは寝相の悪さのせいか、ひどく乱れてくしゃくしゃにめくれ上がり、その下に隠された下着を曝け出していた。 ちなみに下着は、その豊満な肢体に良く似合う扇情的な黒のレースだった。 うむ、実に良いセンスだ。 「ひゃっ!」 可愛らしい声を上げて彼女は大慌てでスカートを正す。 容姿はスタイルは完成された女であるが、どうも雰囲気というか内面部分が抜けているらしい。 俺は久しぶりに愉快な感情を覚えて口元に苦笑を浮かべた。 だがそれがどうも含みを込めたいやらしいものに映ったのか、彼女は俺にまるで痴漢でも見るような目を向ける。 「ま、まさかあなた……私に変な事しに来たんですか……」 その紅く美しい瞳に怯えが混じり、艶めかしい肢体が震え始め、心臓の鼓動が早まっていく。 その様は嗜虐的性嗜好の人間が見れば思わず唾を飲むような淫蕩さがあった。どうもこの女はひどく人の嗜虐心をくすぐる体質のようだ。 それに武器を奪われた無力な女に悪の手先がする事なんて、容易く想像できるだろう。 だが無理矢理女をどうこうするのは趣味じゃない、俺はひとまず誤解を解くことにする。 「さて、変な事とはなにかな?」 「そ、それは……その……エ、エッチな事とか……」 自分で言って真っ赤になっていたら世話無いな。 心音や声の調子からすると初見からの予想通り処女なんだろう。 しかし“この世界の男は見る目が無いのか?”と疑問に思う、これだけの上玉を手付かずで残しておくのはもはや失礼の領域だ。 「残念ながら俺は君の言う“エッチな事”には興味がないんでね、まあ女日照りなのは確かだが、無理矢理というのは俺の趣味じゃない」 「……ほ、本当ですか?」 「今ここで俺が嘘を付くメリットはないだろう?」 俺はそう言うと手にしたグラスとウイスキーの瓶を目の前にかざす。 やや薄暗い独房の光に照らされたグラスが反射し、ウイスキーの美しい琥珀色が妖しく輝く。 「俺はこいつを飲(や)りに来ただけだ」 俺のこの言葉に、女は首を傾げて不思議そうな顔をする。 その仕草がまた随分幼さを漂わせて妙な愛らしさを覚えた、どうも彼女は天然の男殺しらしい。 「……意味が分かりませんが……ここでお酒を飲む理由がどこにあるんですか?」 その質問に俺はグラスに注いだ酒を飲みながら答える、やはりこの声を聞きながらだと普段の何倍も美味い。 舌の上に広がるアルコールに幾らでも芳醇さが増す気がした。 「理由は3つある、一つはここの連中に一緒に酒を楽しめるような奴がいない事。もう一つはお前の声だ」 「声?」 「ああ、実に良い声だ、きっと歌手になれば大成するぞ? これは賭けても良い」 「じょ、冗談はやめてください……」 お世辞半分の言葉でも恥じらいを見せる、なんとも純だな。 思わず“いつか悪い男にコロリと騙されるんじゃないか?”と少しだけらしくもない心配してしまう。 だが半分は本当だ、この声質ならば最低限の事を教えれば確実にモノになる。 おまけに容姿にも華もあるので申し分ない。 そんな感慨に耽っていると、その澄んだ声がまた俺に投げかけられた。 「それで3番目の理由ってなんですか?」 「ああ、それなんだが……まあ一杯やりながら話そうじゃないか」 そう言うと俺は空になった自分のグラスにまた酒を注いで手渡した。 少しばかりの警戒を込めた目で俺をジッと見つめると、女はそれを受け取る。 「じゃあまずは自己紹介といこうか、俺はミッドバレイ・ザ・ホーンフリーク。バレイとでも呼んでくれ」 「フェイト……フェイト・T・ハラオウンです」 軽く自己紹介をした俺は事の本題に入った。話すのは無論“あの話”に関する事。 これはいわばカード(手札)の補充だ、いつでも切れる有効な札があるに越した事はない。 もし状況がどちらに転んでも上手く立ち回れるように手を打っておく。 俺は美酒と美声に酔いながら、頭の中に描いた算段をもう一度胸中で反芻した。 続く。 前へ 目次へ 次へ
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【名前】ヴィータ 【原作】魔法少女リリカルなのはA s/Strikers 【声優】真田アサミ 【種族】守護騎士(ヴォルケンリッター) 【性別】女性 【年齢】6歳程度(外見年齢) 【外見】 オレンジの三つ編みに小柄で幼い容姿。ややつり目。 【性格】 勝ち気で意地っ張りだが一途な性格で、仲間や家族を大事に思い、その安全や成長に責任感を抱く。基本的に無愛想だが、仲の良い相手には豊かな表情を見せる。 【原作での設定】 ロストロギア・闇の書が搭載する防御プログラム、ヴォルケンリッターの一員で、鉄槌の騎士と呼ばれる。当代の主、八神はやての家族を死なせない為、仲間達と共に闇の書を完成させようとしていた。その過程でなのは達と出会い、戦いの果てに仲間となる。その後ははやてと共に時空管理局に所属、10年後の機動六課設立時にはスターズ分隊の副隊長として活躍する。 明確な参加時期は、初登場作品の書き手に一任。 【面識のある参加者】 名前 呼び名 関係 高町なのは(A s) なのは 敵 フェイト・T・ハラオウン(A s) テスタロッサ 敵 八神はやて(A s) はやて 大事な家族。超べったり ユーノ・スクライア ユーノ 敵 クロノ・ハラオウン クロノ 敵 シグナム シグナム 長い年月を共にした同胞 シャマル シャマル 長い年月を共にした同胞 ザフィーラ ザフィーラ 長い年月を共にした同胞 【技能・能力】 能力名 内容 魔法 自身の魔力を用いて起こす技能。特に古代ベルカ系に優れる。 デバイス操作 デバイスを扱う技能。特にグラーフアイゼンの扱いに優れる。 教導 他者を教え導き、能力を高める技能。特に打撃・防御関係の教導に優れる。 以下、リリカルなのはクロス作品ロワイアルにおけるネタバレを含む +開示する 【ロワでの面識(105 未知あるいは既知との遭遇の時点)】 キャラ名 呼称 関係 初遭遇 高町なのは(A s) 高町なのは(高町なんとか) 敵対 未遭遇 フェイト・T・ハラオウン(A s) テスタロッサ 敵対 未遭遇 八神はやて(A s) はやて 大事な家族、主→偽者? 未遭遇→(死体)099 Knight of the Rose(前編) ユーノ・スクライア ユーノ 敵対 未遭遇 クロノ・ハラオウン お前 敵対→仲間? 042 盟友(前編) シグナム シグナム 長い年月を共にした同胞 未遭遇 シャマル シャマル 長い年月を共にした同胞 105 未知あるいは既知との遭遇 ザフィーラ ザフィーラ 長い年月を共にした同胞 未遭遇 ギルモン ギルモン 敵対→仲間 018 家族(前編) キング 敵対 ?(名前は知らない) 018 家族(後編) 八神はやて(sts) はやて 敵対、ギルモンの仇 018 家族(後編) ヒビノ・ミライ ミライ 仲間? 042 盟友(前編) アグモン アグモン 仲間? 042 盟友(前編) アーカード アーカード 敵対、クロノとアグモンの仇 042 盟友(後編) セフィロス セフィロス 敵対 099 Knight of the Rose(前編) クアットロ ?(名前は知らない) 105 未知あるいは既知との遭遇 高町なのは(sts) フェイト・T・ハラオウン(sts)